絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

「家に連絡して、うちの主人に迎えに来てもらいましょう」

 どうやら小夜も、このまま桜城邸に居続ければ絢子の身に危険が及ぶと考えているらしい。だから自分の家に身を寄せてほしい、怒れる匠一から絢子を匿いたい、と申し出をしてくれるのだ。自分でもなにが起こっているのか分からない今の絢子には、その気持ちがなによりも嬉しい。

「それまでガレージに隠れていらして……」
「松木さん」

 しかし小夜の提案は、背後から響いた冷たい声にあっけなくかき消される。絢子と小夜がハッと振り返ってみると、そこには口角を上げて絢子をせせら笑うような表情を浮かべた、妹の燈子が佇んでいた。

「燈子お嬢様……」
「あなた桜城の使用人のくせに、不倫した最低女の娘を庇うつもりなの?」
「!」

 身を竦ませる小夜を責めるように、燈子が至極愉快そうな表情で小首を傾げる。

 絢子の三歳年下で現在十九歳。大学一年のキャンパスライフを謳歌中の桜城燈子は、匠一が亡くなった香純の後妻として迎えた女性、麻里恵(まりえ)との間に生まれた絢子の妹である。

 彼女は自分より格下だと判断した相手を高慢に顎で使い、相手が年上でも使用人は絶対に敬わない。大学でも父の仕事関係で出席する社交の場でも、社会的地位や羽振りの良さで人の価値を判断する。常に高飛車で自信家な性格は匠一にそっくりだ。

「それとも、松木さん〝も〟職を失いたいのかしら?」
「……やめて、燈子」

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