絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

2. 見つけられて、どきり


 高台に建てられた桜城邸は、敷地の広さと引き換えに駅や繁華街からはやや離れた場所にある。大学への通学時は必ず車で送迎してもらうのであまり気にしていなかったが、徒歩で街に出るにはかなりの時間を要する。

 とはいえ頭が働かない放心状態でふらふら歩いていたせいか、時間の経過自体はそれほど気にならなかった。

 一時間近く歩き続け、ようやく最寄りの駅に辿り着く。だがそこから先はどうしていいのかわからない。どこに行けばいいのか、どうすれば冷たい夜を越えられるのか、すべてを失った衝撃のせいで対処方法が一切思い浮かばない。

「お財布もないし、どうしよう……」

 スマートフォンは持っていたが、財布は部屋に置いたバッグの中だ。アプリには多少の電子マネーが入っているが、ここに新たに入金したりクレジット機能を使うことはできない。なんなら父の名義で契約しているこのスマートフォンすら使うことをためらわれる絢子だ。

 複数の路線が乗り入れているため都内でも比較的大きい駅前広場のベンチに、そっと腰を下ろす。そこから帰路につく会社員や学生、スケートボードで遊ぶ若者、夜の散歩を楽しむペット連れの夫婦やカップルの姿をぼんやり眺める。

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