二人の歩幅が揃うまで
「おや、久しぶり…というのも変な感じですが、お久しぶりですね、湯本さん。」
「ちょっと体調を崩していまして…。」
「もう良くなられたんですか?」
「…少しはって感じで。栄養をしっかりとるために来ました。」
「なるほど。では、ゆっくりたくさん、食べていってくださいね。」
「はい。ありがとうございます。」

 オーナーの温かい言葉に、思わず笑みがこぼれた。栄養も大事だが、この優しい空間で丁寧な食事がしたかったというのが本音だ。体調は完全に戻ったわけではないし、少し気だるいけれど、頑張って来た甲斐があったというものだ。

「ご注文はお決まりですか?」

 目が合った健人が綾乃のところまで来た。いい匂いが鼻を刺激してくれたおかげで、空腹を強く感じる。

「たっぷり野菜のポトフを一つと、エビグラタンと…ホットティーと温野菜のサラダでお願いします。」
「かしこまりました。」

 この2週間、ほぼ野菜を食べていないといっても過言ではない。炭水化物を何とか口に入れて、空腹だけは満たしていたというレベルだ。今日はそんなギリギリの体に、優しい食べ物を与えてしっかりとした回復を目指したい。
 運ばれてきたホットティーを口に運ぶ。じわっと温かさが体に広がる。温野菜のサラダはほくほくと口の中で野菜が溶けていく。

「美味しい…。」
「今日はいつもよりも多めですね、ご注文が。」

 カウンター越しのオーナーと目が合った。口の中にはまだほろほろの野菜が入っているので、綾乃は飲み込んでから口を開いた。

「…本当にロクなものを食べていなかったもので、野菜を多めにと思いまして…。」
「あったかいお野菜が多めなのは良いチョイスですね。はい、次はこちら、ポトフですよ。」
「野菜が大きくてゴロゴロ入ってる…。」
「結構煮込んでますから、味もしっかりしみてますよ。」

 コンソメと、おそらく黒コショウだろう。美味しい香りが鼻をくすぐった。
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