二人の歩幅が揃うまで
おまけエピソード

ずっとずっと構って

【健人の誕生日の夜の続きのお話です】

* * *

「…やっぱり、疲れちゃった?」

 コトンと置かれたグラスには冷えた水が入っていた。グラスの音と、心配したせいなのか落ちたトーンの声に、綾乃は目を開けた。

「慣れないことしたからね。多少は疲れるけど、でも大丈夫。寝ちゃったりしないよ。」
「水分補給してね、ちゃんと。」
「ありがと。」

 綾乃は水をゆっくりと飲んだ。火照った体に冷えた水は妙に心地よく、半分くらい飲んでグラスを一度置いた。上半身だけ脱いだままの健人の体に、軽くタオルケットを巻いたままの綾乃はそっと体重を預けた。タオルケットごと、優しく抱きしめてくれる健人に、心の底から安堵して、ふうとゆっくり息を吐いた。

「…綾乃ちゃん?」
「する前はそれなりに緊張もしてて、不安もゼロじゃなかったのに不思議だよね。終わっちゃうと緊張とかはどこかにいっちゃって、でもなんかちょっと人肌恋しいなぁとか、ちょっと甘えたいなとかそんな風に思っちゃって。」
「もっとぎゅってしてていいの?」
「うん。…これ、飲み終わったらもうちょっといちゃいちゃ、延長戦しよっか。」
「…本当に、いいの?無理してない?」
「うん。…っていうか、そっくりそのまま、同じ言葉を返すよ。無理してない?」
「無理?俺が?」
「うん。したくないことを言わないで我慢するのもそうだけど、したいことをしたいって言わないのも我慢でしょう?」

 綾乃はタオルケットの中から腕を伸ばした。健人の頬に触れると、その顔は近付いてきた。綾乃が目を閉じると、柔らかく一度だけ唇は重なった。

「綾乃ちゃん、すぐ俺を甘やかす。」
「甘やかしたいんだもん。だって、誕生日だよ?」
「もっともっとって欲深くなったらどうするの?いっぱい甘やかされたら欲張りになっちゃうよ。」
「ちょっと欲張りなくらいが、多分健人くんはちょうどいいよ。」
「…じゃあ、欲張りになる。健人くん、じゃなくて健人って呼んで?」
「…そうでした。ごめんね、慣れなくて。健人…健人…呼び捨てにする。」

 綾乃はぶつぶつと練習を始める。真面目な綾乃が愛おしくなって、健人は再び顔を近付けた。綾乃の頬に口づけが落ちる。

「な、なに?今そういう雰囲気だった?」
「そういう雰囲気でもそうじゃなくても、ずっとくっついていたいし、キスしたいよ。だって大好きだもん。」
「っ…可愛いよね、本当に。そういうところ。」

 再び熱くなってきた頬を冷ますために、綾乃はグラスの水を飲み干した。
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