婚約破棄直後の悪役令嬢と入れ替わってしまったヒロインの話

07 悪役令嬢とヒロインの明日

 
 大変なことになった。
 ウエディングドレスに浮かれていた夫人は天国から地獄に突き落とされて、私を抱きしめながら大声で泣き叫び、ひとしきりわめいたあとに気を失ってしまった。

 公爵はいつものように怒鳴ることもなく、ただ震えて青ざめてそれ以上なにも言えなくなった。娘が処刑されてしまうことへの不安か、ブリンデル家から犯罪者が出ることへの不安かはわからない。

「殺人未遂とはどういうことでしょうか」

 処刑予定の私が一番泣きたいのに、彼らの騒ぎっぷりを見ていると冷静になるしかない。
 酷い状態のリビングルームで立ちすくんでいると「お姉様!」と愛しい人の声がした。きっと話を聞いたであろうラーシュが、息を切らして帰ってきたところだった。

「二人は……話ができる状況じゃないな」

 ラーシュは周りの使用人にテキパキと指示をすると「お姉様を部屋に連れて行くよ」と宣言した。
 ラーシュは私の手を引いて早足で歩いていくけど、フレイヤの部屋には向かっていない。

「私はもう国に連れて行かれるの?」
「一応フレイヤは公爵令嬢だ。家の立場があるから支度の時間は許されてる。でも事情の聞き取りにはもう来るかもしれない」
「ねえ、ラーシュ今どこに向かっているの?」

 ラーシュが進む先には書庫がある。ラーシュに強引に奪ってほしいと思ったけど、こんな強引さは嫌だ。私はラーシュと一緒にいたい。

「行かない」
「リア?」
「もとに戻らない」

 ラーシュは少し考えると、私を抱き上げてそのまま歩きだした!

「待って! 私は戻らない! あなたと逃げ――」
「しっ」
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