異世界最速の魔王討伐 ~転生幼女と美少女奴隷の隠されたミッション~

11. 作詞作曲ムーシュ

 翌朝、蒼は美味しそうな匂いに包まれ、心地よく目を覚ました。

 寝ぼけまなこをこすりながら起き上がると、エンジ色のワンピース姿のムーシュが鼻歌まじりに何やら肉を焼いている。

「あら、主様、お目覚めですか?」

 天使のような笑顔で、ムーシュは蒼に優しく微笑みかけた。

「あ、あぁ……。もう……、いいのか?」

「もう大丈夫ですよっ! 主様との(きずな)でふっかーつ!」

 ムーシュは青空にこぶしを突き上げ、心からの喜びを全身で表した。

「そ、そうか。それは良かった」

 蒼は安堵し、優しい目でうんうんとうなずく。

「ただ……。しばらくは飛べそうにありません……」

 ムーシュは背中を見せて、ほとんど骨だけになってしまった翼をゆらゆらと動かす。

「あぁ……。これは……治るのかな?」

「三か月もあれば飛べると思いますよ? でも、それまでは歩くしかないと……」

 ムーシュは申し訳なさそうにうつむく。

「いやいや、ムーシュがいなかったら死んでたんだ。そのくらいは仕方ないよ」

「主様……」

 ムーシュはとっとっとと蒼に駆け寄ると、抱き上げてすりすりとプニプニほっぺに頬ずりをした。

「なんとお優しい! ありがとうございます!」

 蒼はムーシュの華やかな匂いに包まれ、真っ赤になってもがき、ムーシュを引きはがす。

「分かった。分かったから! なんでいちいち頬ずりするの!?」

「だって主様のほっぺた気持ちいいんですもの」

 ムーシュは恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべる。

 蒼は腕を組み、大きく息をついてフンと鼻を鳴らす。若い女の子にすりすりされるのは蒼としても悪い気はしないのだが、少し後ろめたく、刺激が強すぎるのだった。

 また、このとき、ムーシュの腕の力が前回よりかなり強くなっていることに気がついた。

 すかさず鑑定をかけてみると――――。

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Lv.49 ムーシュ 18歳 女性
   :
   :
称号 :強大なる幼女の輝く盾
ーーーーーーーーーーーーーー

 レベルと称号が変わっていた。

 称号は『堕天使の理解者』が消えている。これはルシファーが死んで整理されてしまったのだろう。

 それはともかく、ムーシュは誰を倒したわけでもないのにレベルが凄く上がっている。これは蒼が倒した敵の経験値がムーシュにも分配されているのではないだろうか?

 ムーシュが力をつけることは、厳しい旅路を二人で乗り越える上で希望の光だ。『輝く盾』として、今後もこの幼女の身体を守ってもらわないとならないのだ。

「はい、主様。朝食ですよー」

 ムーシュは嬉しそうにトレーの上にパンと焼いた肉を並べ、その前に蒼を座らせた。

「あれ? 野菜……は?」

「きゃははは! 悪魔は野菜なんて食べませんよぉ」

 子どものような無邪気な笑顔で、ムーシュは笑う。

「いや、僕、人間なんだけど……」

「あら、そうでしたねぇ……」

 ムーシュはキョロキョロと焼け焦げた森の中を見回すと、倒木に走り寄り、何かを取ってくる。

「いい感じに焼けたキノコを見つけましたよ!」

 嬉しそうに立派なキノコを見せるムーシュ。

 蒼は苦虫をかみつぶしたような表情で鑑定をかけてみる。

ーーーーーーーーーーーーーー
ナイトメアスポア
種族 :菌類
性質 :毒キノコ
 食べると昏倒し、悪夢を見ながら死んでいく
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「これ……。毒キノコなんだけど……?」

「あれ? そうなんですか? あたしキノコなんて全然わからなくて。きゃははは!」

 ムーシュの笑い声が響く中、蒼は憂いを帯びたため息をつき、首を振った。

『輝く盾じゃなかったのかよ……』


        ◇


 気乗りしなかったものの、蒼は香ばしい肉の朝食に手を伸ばした。未知の肉が放つ独特の芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、一口噛むと口の中にぶわっと濃厚な肉汁がひろがっていく。相当に美味いが……、何の肉かを聞く勇気はわいてこなかった。

 食べ終わると、テントを畳んで移動を開始する。

「街は方向としては南の方だからこっち?」

 蒼は太陽の方角を見ながら焼け野原を指さす。

「多分そうじゃないですか? よく分かんない。きゃははは!」

 ムーシュは無責任に笑う。

 蒼はムッとしたが、怒るだけ無駄そうだったので自分で決めることにした。

「じゃあ、とりあえずこっちに進むぞ!」

「はいはーい。ムーシュにお任せあれ~」

 ムーシュはヒョイっと蒼を抱き上げるとキュッと抱きしめ、まだ焦げ臭さが鼻につく焼け野原へと入っていく。

「おわぁ! ちょっと! 自分で歩くよ!」

「大丈夫ですよ! それに、飛べなくなったのはあたしのせいなので!」

 ムーシュはそう言うとまた蒼のプニプニほっぺに頬ずりをした。

「もう……」

 蒼はポッと赤くなり、ふぅとため息をつく。

「じゃぁ、いっきますよぉ!」

 ムーシュは蒼を抱き抱えたまま焼け野原の森へと飛び込んで行った。倒木をピョンと越え、倒れかけた木を潜り、元気に進んでいく。

「森は続く〜よ〜♪ どこ〜までもぉぉぉ♪」

 ムーシュは楽しそうに調子っぱずれの歌を歌う。

「あー、なんの歌なのそれ?」

「くふふふ、コレはあたしのオリジナル。ムーシュは作詞作曲もできる凄い悪魔なのです! エヘン!」

 自慢げに胸を張るムーシュ。

「あ、そうなんだ……。すごいね……」

 蒼はどこまでも続く焼け野原を眺めながら、前途多難な二人旅を憂えた。
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