初恋は嘘つきだった
1話


 
〇冒頭・高級料亭(昼)

 高級料亭、和室の個室。障子は開け放たれ庭園の池が見える。

 洒落たスーツに身を包む久遠大志。
 久遠大志(くおんたいし):千尋の婚約相手。クオンホールディングスの御曹司。容姿端麗。


 綺麗めワンピースに身を包む北条理央。
 控えめな性格。天真爛漫な姉が大好きで羨ましく思っている。


大志「妹ちゃんが俺の婚約になってくれる?」


 理央、大志。至近距離で見つめあう。
 大志、不敵に笑っている。
 

理央(なんでこんなことになっちゃったのー?!)

 戸惑う理央と、余裕の笑みを浮かべる大志の顔アップ絵。



〇数日前に遡る 理央宅・理央の部屋(夜)

 ところどころにぬいぐるみが置かれているが、シンプルな理央の部屋。
 姉・千尋と向かい合って座っている理央。

 姉・北條千尋(ほうじょうちひろ)(24):非正規雇用の塾の講師と家業の花屋のアルバイトをしている。綺麗めな美人。ロングヘア。


千尋「理央! お願い! 私、お見合い結婚なんてしたくないの!」
理央「お姉ちゃん……」

 
 
 千尋、両手を重ねて理央に頭を下げて頼み込む。
 頭を下げる千尋を見た理央、あたふたと慌てる。
 


〇状況説明
 姉・北條千尋、婚約が決まっていた。
 相手はクオンホールディングスの御曹司・久遠大志(くおんたいし)
 
 理央の父、「フラワーショップ北條」という花屋を営んでいる。お店は小さいながらに繁盛していた。
 繁盛している理由の1つ。ウエディング業界大手クオンホールディングスと提携を結んでいる。
 式場におろす花は定価も高いため、収入源のほとんどは、クオンホールディングスとの提携のおかげだ。
 大きな取引相手の久遠家には逆らうことができない理央父。

 この婚約、いわば政略結婚。
 

千尋「私、やっぱり、この婚約はできない! だって……」

 理央(お姉ちゃんが嫌がる理由は分かる)

 〇(回想) 理央宅(夕)

理央父「理央。久遠大志さんとの縁談の話があってな……」
千尋「へ? 久遠大志って。あのクオンホールディングスの?! なんで私が?! 意味がわからないんだけど!」
理央父「父さんも、理由は聞いてないんだが。『北條家のお嬢さんと縁談を結びたい』と申し出があったんだよ。まあ、取引するようになって付き合いも長いしなあ……」
千尋「嫌だよ! 私好きな人いるもん!」
理央父「千尋……。頼む。クオンホールディングスと仲がこじれたら。ウエディング業界との縁が切れてしまう。久遠家の意向に反したら、この業界ではもうやっていけないんだ……」
千尋「……」

 必死に頼み込む父の姿を見て、何も言えなくなる千尋。
 (回想終了)

 〇元の理央部屋(夕)

 理央(お姉ちゃんが自分の気持ちを押し殺して、お店のために婚約したことは知っている。大好きなお姉ちゃん。力になりたいけど……)

理央「私だって、お姉ちゃんの力になりたいけど……私にはなにもできないよ」
千尋「今、『力になりたい』って言った?!」

 千尋、下げていた頭を勢いよくグイっとあげる。
 
理央「……言ったけど。なにもできないよ?」
千尋「あるある! 理央に頼みたいことがあるの!」

理央(頼みたいこと? 嫌な予感がする……)

 千尋、理央の耳元に手を当てて話す。
 理央と千尋、こじんまりと内緒話をしているデフォルメ絵。

 驚いたような顔をする理央。
 
理央「えーっ?! 両家顔合わせの時に『お姉ちゃんは、久遠家の婚約者に相応しくないって密告して?』って……そんなこと無理に決まっているでしょ?!」
千尋「……お願い!」
理央「だって、お姉ちゃん。お父さんに何度もお見合いの話白紙にしてもらえないかお願いしてたじゃん! それで無理なんだから、私が何を言っても無理だよ!」

 悲しそうな顔をする千尋。
 
 × × ×
 <フラッシュバック>
 
 父親に婚約破棄を頼み込む千尋。
 その想いは届かず、父親に土下座される。
 理央父、千尋の前で土下座している。
 理央父「……すまない。千尋……」

 × × ×
 

千尋「婚約破棄が無理なら……相手の男に幻滅させればいいのよ!」
理央「そんなこと……」

 ひらめいたように満面の笑みで理央に問いかける千尋。
 
 
千尋「もう、この際、とことん私の悪口を言ってよ! お姉ちゃんはあばずれ最低女です! とでも叫んでほしい!」
理央「えーっ?!」
千尋「最低な女だとわかったら、久遠家にはふさわしくないって、向こうから婚約破棄してくれるじゃん? 久遠家の御曹司があばずれ女なんかと婚約しないでしょ!」
理央「そ、そんな……婚約破棄してもらえるかなんて、わからないよ」
千尋「……」

 理央に断られると、黙り込むと一気に目に涙をためる千尋。そんな姉の姿を見た理央、戸惑う。

理央(お姉ちゃんに好きな人がいることは知っていた。でも……お姉ちゃんをさげずむようなこと言いたくないし。この方法が成功するとは思えない……)

 理央、内心は拒否しながらも、ちらりともう一度千尋の姿を見る。
 しゅんと落ち込む千尋。


理央「……分かった。言ってみるよ!」

 理央の言葉を聞いて、ぱあっと表情を明るくさせる千尋。
 千尋は感情表現が豊か。表情をコロコロと変える。

千尋「本当?! ありがとう! 私の婚約がだめになっても、理央には迷惑かけないから! だって、理央はまだ高校生だし! 代わりに結婚しなさい。なんて言われないから安心して?」
理央「もう。うまくいくかはわからないんだからね?」

理央(そうだよね。私はまだ高校生。それに、美人のお姉ちゃんの代わりだなんて。勤まるはずがない)



〇高級料亭(昼)

 迎えた久遠家と北條家の初顔合わせ。
 中庭に園庭が見える一室。

 
 大志の父の会社・クオンホールディングスはブライダル業界王手の会社。ブライダルだけではなく、ホテル事業。飲食事業も行っている。
 

 大志の両親。
 大志父:終始眉間にしわが寄っている。顔が怖い。
 大志母:着物を着ている。優しそうな雰囲気。

 理央の両親。
 理央父:大志父には顔が上がらない。顔色を窺っている。
 理央母:父と同じく。大志父には顔が上がらない。千尋がいない現状に焦っている。
 
 
 久遠大志。大志の両親。理央の両親。みんな座っている。
 千尋だけが不在。
 雰囲気が重い。気まずそうな表情を浮かべる理央。

理央(どうしようー! 本当にお姉ちゃんはこない。ということは、作戦を決行するしかない……?!)

 理央、緊張でドキドキ心臓が鼓動する。
 ちらりと大志を見る。綺麗な大志の顔のアップ絵。

 × × ×
 <フラッシュバック>

千尋「婚約者の久遠大志さん。御曹司だけど。性格悪いって噂。そんな人と結婚なんていやだよ」
 大志の悪い噂を聞いて、愚痴る千尋。
 × × ×

理央(お姉ちゃんが言っていたみたいに、性格悪そうには見えないけどな。なんだか優しそうな雰囲気)

 理央、大志をじっと見つめる。視線を感じた大志、理央に視線を向ける。
 ふいに目が合い、どきっとする理央。
 驚いたような顔をする大志。

大志父「……千尋さんはまだかね?」

 イライラしている様子。イラつきを表すように足を貧乏ゆすりさせる大志父。


理央父「えっとー。おかしいな」
理央母「今連絡しているのですが……」

 千尋がボイコットしようとしていることを知らない理央の両親。気まずい空気に焦っている。
 その様子を見た理央、違う理由で動揺が広がる。

理央(どうしよう。言わなきゃ。お姉ちゃんとの作戦を遂行しなきゃ……)

 理央、心臓がどくどくと鳴る。重い空気の中、決心して口を開いた。


理央「あ、あの!」

 理央が口を開くと、その場にいる全員が理央に視線を向ける。
 集まる視線にたじろぐが、唾をごくんと飲み込んで再び口を開く理央。

理央「お姉ちゃんは……北條千尋は……あばずれ女です!!」

 理央、声を張り上げた。
 しんと静まり返った室内に理央の声が響く。

 突拍子のない言葉に理央の両親は驚いている。
 目を見開いた理央母、正気を保てない様子で口を押えている。

大志父「なっ。あ、あばずれだと?!」
理央「は、はい! 姉はあばずれ女です! この婚約には相応しくないと思います!」

 動揺するみんなに、ぎゅっと目を瞑りながら再び声を上げる理央。

大志父「大志! どういうことなんだ?!」
大志「……」

 大志、あっけにとられたような顔で黙り込んでいる。

理央「なので、この婚約はなかったことに……」

 理央の言葉に、大人たちは顔を見合わせて意味深な顔をする。

大志父「……」
大志母「お父さん……」

理央(この流れだと……作戦成功?!)

 このまま婚約破談に持ち込めると期待する理央。
 そんな期待を打ち消すような言葉が降ってくる。
 
 
大志「……それはできません。社内にも親族にも婚約したことを報告済みですので。ここで婚約破棄などされては、父の顔に泥を塗られたようなものです」

 淡々と言いのける大志。
 理央の両親、顔を蒼白する。
 

大志父「……はあ。別に誰でもいいんだ。姉がだめなら、代わりに妹と婚約させる! それでいいだろ」
理央父「え。でも、理央はまだ……」
大志父「親族にも報告済みなのに、破談になってときたら。わたしの面子が立たない。北條さん家のお嬢さんなら、長女でも次女でも同じだ」

理央(なにそれ。私たち姉妹をなんだと思って……。自分の面子のために息子の結婚相手を選ぶなんて)

 大志父、他の人の意見なんて聞く耳を持たない。自分の意見を告げると、怒りを表しながら、部屋を出て行く。
 大志父は取引会社の大本の大企業。機嫌を損ねたら理央の父の家業は破綻する。
 慌てて理央父、理央母は追いかけていく。

 広い和室に取り残される理央と大志。
 気まずい空気が流れる。

大志「はあー、」

 大志、わざとらしく大きなため息を吐いた。
 
理央「あの……」
大志「俺の婚約者……君のお姉さんか。お姉さんに頼まれたの? それとも本当にあばずれ女なの?」
理央「いえ! お姉ちゃんはあばずれ女じゃないです! 好きな人がいて……それでこの婚約を解消したくて……」


 再び無言が流れる。気まずい空気に理央の表情は硬い。

 
大志「くっ。……ははっ」

 思い出したかのように、軽い笑い声をあげる大志。

理央「……え」
大志「ごめんごめん。さっきの思い出した。『あばずれ女です!』ってさ。両家の親もいる前でよく言えたな……ははっ」

 大志、口を開けて笑い出す。
 予想外の反応を見せる大志に、あっけにとられる理央。
 
理央(ずっと真顔で気難しい人って思ってたけど、こんな風に笑うんだ)


理央「必死だったので……本当は言いたくなかったですけど」
大志「ははっ。あんな大胆なこと言ったかと思えば、今はしおらしいし。なんなんだよ。ほんとう。ははっ」

 肩を揺らして笑い続ける大志。


 理央(以外に優しい人なのかな? それなら婚約解消してくれるかも)
 
理央「あの、婚約を破棄してほしいんです」
大志「あー。それは無理」

 軽い笑い声は消えて、冷静に返す大志。
 
大志「好きな人がいるから。なんて軽い理由で、婚約破棄をするなんて。どうなるか分かっているのかな? この婚約には君の家の家業の未来がかかっているのに?」
理央「軽い理由って……好きな人がいるから。その人と一緒にいたいと思うのは、軽いですか?」

 嫌な言い方をする大志に、むっとする理央。
 
大志「……」
理央「私は軽いとは思いません。正直よくわからないけど……。わからないけど、好きな人の話をしているお姉ちゃんの笑顔は綺麗だったから……」


 × × ×
 <フラッシュバック>
 好きな人の話をする過去の千尋。にこやかに笑う千尋の絵。
 × × ×

大志「……だから?」
理央「だから……」
大志「好きな人がいるので婚約破棄しますなんて。顔合わせの日に、常識なさすぎるだろ」

 
 大志の言葉に何も言えなくなる理央。
 理央、キュッと口を一文字に結ぶ。

理央(確かに。正論だ。こんな方法で婚約を破棄してもらおうなんて……最低な考えだよね)

 
大志「それで? 責任は妹ちゃんがとってくれるのかな?」

 ずいっと顔を近づける大志。鼻と鼻が触れそうなほどの距離で止まる。
 あまりの距離の近さに驚いて、勢いよく後ずさる理央。


理央「……?!」

 離れた理央の腕をグイっと引っ張り、引き寄せる大志。
 再び至近距離になった理央に甘い吐息交じりで問いかける。

大志「その反応新鮮なんだけど。ウブなフリしちゃって……意味分かってるくせに」

 再び唇を近づけてきた瞬間。重なる寸前で慌てて声を上げる理央。

理央「わ、わたし! 高校生なので期待に添えかねます!」


 高校生という言葉を聞き、ぴたりと動きが止まる大志。
 顔を離れて、目をぱちくりさせてゆっくり理央の顔を見る。

大志「……高校生?」
理央「はい。なので、あなたの希望には答えられそうになりません。婚約者としても役不足だと思います」

 大志、何か考えるような顔をして少し黙る。
 

大志「高校生だったのか、どうりで……」
理央「え?」
大志「……いや、なんでもない。高校何年?」
理央「三年です」
大志「誕生日は?」
理央「えっと、8月です」
大志「ギリギリセーフじゃね?」
理央「……え」

 大志、顔をぐいっと理央に近づける。


大志「俺、妹ちゃんのこと、気に入ったかも」
理央「先ほども言いましたけど、私高校生なので……」
大志「でも、もう18歳だろ?」
理央「そうですけど……」
大志「成人年齢が引き下がったの知っている?」
理央「え、」
大志「法的に問題ないなら、妹ちゃんが婚約者になってみる?」


 理央、状況が呑み込めずに、口を半開きにさせて固まる。
 
大志「妹ちゃんが、大好きなお姉ちゃんの責任取ってよ?」
理央「え、え――!」

 驚いて声を上げる理央。
 大志、不敵な笑みを浮かべる。
 

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