リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく

「離して! 離してください!」
「お前、お兄様が好きなのね。かわいそうに。あんな魔障持ちになってしまった人を好きになるなんて、ほんとうにかわいそう」
「魔障は、人を守った証よ。蔑むことなど許されないわ。だから、あなただって婚約破棄できなかったんでしょう! 偏見に満ちた馬鹿はそっちよ」

 パンっと硬い音が響く。エミリーが彼女の頬を叩いたのだ。

「本当にお前、気に食わないわね。いいこと教えてあげる。兄様はわたくしをあんな目で見たことはないわ。きっとあなたが好きなのよ。でも、おあいにくさま。もうとっくに死んでるわ。私、数えきれないほどお腹にこれを撃ってやったもの。ほんとうに、いい気味」

 髪を掴んだまま、エミリーはリヴィを床に引きずり落とした。彼女も必死で抵抗する。

「急がなくちゃ。早く王都に帰りたいのに、あなたとってもいじめがいがあって楽しくなっちゃう」

 どん、とブーツで背中を蹴られた。エミリーは銃をつかみ、リヴィに狙いを定めようとしている。その隙に、彼女は思いきりエミリーに飛びかかった。二人はもつれあって床を転がる。
「こ、の!」
 エミリーは立ち上がるため、近くの作業台に手をかけた。台板が大きく揺らぐ。上にあったガラス瓶が勢いよく落ちてきて、なかの液体がエミリーの身体にかかる。

「きゃ、なに?!」

 じゅっという音と共に、彼女の肩に黒い液体が襲いかかっていた。リヴィは脇目も振らずに窓から大きく跳躍した。後ろで悲鳴が聞こえる。あれは彼から抜き取って保存した魔障の塊だ。治療法を研究するために取っておいたものだ。

 だが、リヴィは振り向かなかった。
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