知人の紹介で
 衣月の手には数枚のパンフレットが握られている。志信と会話しながらもざっと目を通し、家までは鞄にしまっておこうとパンフレットを鞄のほうへスライドさせたら、スーッと紙の側面が衣月の指を通過していく。薄くて固いパンフレットだったから、見事に指先が切れてしまった。

「痛っ」
「え、大丈夫?」

 指先を切ったときの嫌な感覚に襲われて、思わず声を上げたら、志信が心配そうに見つめてきた。

 立ち止まって指の様子を見てみれば、やはり切れて血が出ているものの、そこまで深く切れているわけではなかった。しばらく押さえていれば血も止まるだろう。

「大丈夫。紙で指を切っただけ」

 衣月が軽く切った指先を見せてみれば、志信は見えづらかったのか、衣月の手を掴んで自分のほうへ少し引き寄せ、衣月の指をしげしげと観察しはじめた。

「本当だ。血が出てるね」

 志信は衣月の手を持ったまま淡々と言ってくる。志信のその行動に衣月の心臓は悲鳴を上げる。衣月はもう指先の傷よりも、自身の鼓動の速さに思考を奪われた。あのプラネタリウムで感じたような、激しい動悸が起こっている。志信に手を取られた瞬間に起こった。志信に手を掴まれていると思うとより動悸が激しくなるような気がする。衣月は一刻も早くその手を離してほしかった。

「……あ、あの……」
「え?」
「……手」
「……あ、ごめん……」

 志信が慌てて衣月の手を離す。衣月の心臓はまだ激しく脈打っている。すぐに自分の手を胸元に引き寄せ、自分に触れているのは自分だけだと認識すれば、次第に胸の鼓動は落ち着いていった。

「……ごめん。指、平気? 絆創膏買ってこようか?」
「……ううん、大丈夫。そんなに深くは切ってないから」
「そっか……じゃあ、帰ろうか」
「……うん」

 胸の鼓動は落ち着いてもなぜだか志信の隣に立つのが恥ずかしい感じがして、衣月は帰りの道で何も話せなかった。志信も何も話さなかった。別れのタイミングで「それじゃあ」と言っただけだった。
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