知人の紹介で
第二話 能ある鷹に娶られる
「純花さん。定期試験の答案全部返ってきたよ」

 子犬を彷彿とさせるようなつぶらな瞳で見つめてくるその男の子は、今純花が家庭教師をしている生徒・楠瀬湊斗(くすのせみなと)だ。湊斗は少し前に高校三年生に進学し、今は受験に向けて日々勉強に励んでいた。

 純花は湊斗が目指す大学の二年生で、湊斗が同じ大学に合格できるよう鋭意指導を行っている。

「じゃあ、全部見せてくれる?」

 すべての答案用紙を確認してみれば、いずれも八割を超えた点数を記録しており、間違いなく今までで一番の結果だった。

「すごい。全体的に上がったね。よく頑張ったね、湊斗くん」
「じゃあ、褒めてくれる?」

 湊斗は椅子に座ったまま、上目遣いで純花を見つめてくる。純花はこの視線に弱い。なんだか母性本能をくすぐられるのだ。

「もちろん。本当によく頑張ったね。えらいよ」

 よしよしと頭を撫でてやれば、湊斗は嬉しそうにその顔を緩めた。その表情も子犬のように本当に愛らしい。男子高校生に対する扱いではないとも思いはするのだが、いつも湊斗からしてほしいとねだってくるものだから、すっかりこうするのが当たり前になってしまった。

「ありがとう、純花さん」
「いいえ。受験のほうもしっかり頑張っていこうね」


 湊斗は今でこそこうやって純花に懐いてくれているが、出会った当初は驚くほどその心を閉ざしていた。
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