知人の紹介で
第三話 正義感はほどほどに
「最っ低! 浮気するなんて信じられない。人として恥ずかしくないわけ? 子供でも分かる簡単なことが理解できないなら、もう人間やめたら? このくず男がっ! 二度と愛子の前に現れないで!」

 カフェの中という人の目がある場所にも関わらず、鈴森(すずもり)千景は目の前に現れた男に対し、腹の底からの罵声を浴びせかけた。

 同僚で友人の愛子(あいこ)が交際相手から何度も浮気されたと聞いて、千景は頭に血がのぼっており、その男性に会うや否や今の暴言を吐いてしまったのだ。

 一人で別れ話をする自信がないという愛子の付き添いとして千景はいたのだが、愛子が何かを言うよりも前に千景が先に言葉を発していた。

 千景の隣にいる愛子は、千景の腕を引き、眉を下げた困り顔でしきりに首を振ってくる。

「……千景ちゃん。違うの」
「愛子。いいのよ。言いたいことは全部言っちゃえばいいんだよ」
「違う。そうじゃなくて。この人じゃないの」
「……え?」

 愛子の言葉の意味がすぐに理解できなくて問い返せば、目の前にいた男が愛子にだけ視線を向けて淡々と話しはじめた。
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