好きとは言わない誓約です
私は久々に見るマナのジャージ姿を、同じ班なのにちょっと遠くからドキドキ眺めて歩いた。


クルミちゃんとマナは何を話しているんだろう。




トミーの計算がバッチリはまったようで、ハイキングはタイムテーブル通りに進み、休憩ポイントには十二時ぴったりに到着した。


「すごいー! 予定通りだね。さすがトミー」

と、丹田くんがトミーに拍手した。


「ね! 一昨日の放課後頑張ってくれたもんね。さすが秀才トミー(秀才かどうかは知らんけど)」

私もヘラヘラと便乗。


するとトミーは眼鏡のブリッジをクイっとして、さっとレジャーシートを広げはじめた。


「おー!クール!トミーは動きに無駄がないよね」

と、絡もうとするも、「持田さんも早くシート出しなよ」とトミーに怒られる。


そんな釣れないやり取りも林間学校だから楽しいよね。


お弁当タイムでも、もちろんクルミちゃんはマナの隣を陣取る。


明日の告白に向けて追い込みをかけているのだろうか。


そして、私はデカデカと「必勝」と海苔文字の書かれたお弁当をパカっと開けて、すぐにそっと閉じた。


うぉい! お兄が体育祭だからってなんで私の弁当まで必勝よ。


「菜月ちゃん食べないの?」と松本さんに言われ、私は観念してお弁当をもう一度開けた。


多分、班の全員がそのタイミングで私の弁当を見て一瞬フリーズ。


「……必勝だね。」と松本さんが言った。


「……必勝だね」と私も返した。

「お兄が今日、体育祭だからかな。ははは」


するとマナが小さく吹き出しているのが目の端に飛び込んで来た。


みんなにバレないように、座ったまま後ろを向いて小刻みに肩を揺らしている。


密かに笑うマナと目が合うと、私は恥ずかしくて嬉しくて、よく分からない顔をして笑ったと思う。


私が必勝の海苔をいち早く喰らい尽くした頃に、ようやく別の班がやってきた。


別のクラス……おっと、甲斐の班だ。


「あれ? マナと丹田じゃん。お前らも右回り? うちらの班だけだと思ってたわー。先輩から右から行くのが一番早いって聞いてさ。お前らも?」


甲斐とよく一緒にいるサッカー部の男子が言った。


「いや、うちは秀才が計算により弾き出した結果、うんたらかんたら」

と丹田くんが話し始めると、私は甲斐と目が合った。でも軽くそらされる。


甲斐とは一昨日の放課後以来だった。


なに? 私に怒ってるのか?

マナに一番の女友達認定を受けたこと、ほんとは早く報告したいのに。


「え、やばくない? マナたちの午後のコース神がかってる。甲斐、俺らこのままマナたちについていこうぜ。神がいる、神が」


なにやらうちのしおりをぶん取り、甲斐班のサッカー男子が盛り上がっている。


そして彼らは「お邪魔しまーす!」とレジャーシートを私たちの班にくっつけて広げ、なんだか大所帯になってしまった。

甲斐のクラスは元気な人たちが多いらしい。


「海苔」

甲斐が私のレジャーシートに勝手に入ってくると、ドサっと座って言った。


「口に海苔ついてる」


ぎゃ、と私は慌てて唇をこする。


「全然取れてねーし」と言って、甲斐が私の口角を袖で拭った。


「のり弁?」


「いや、必勝文字のり弁」


すると、「なんでだよ」と言って甲斐が八重歯を見せて笑ったので、私はホッとした。怒ってはなさそう。


甲斐が来ると私のレジャーシートだけじゃ狭いなー。自分のシート広げろし。

と思いつつお弁当の続きを食べようとすると、マナと目が合った。


私はヘラっと笑うも、いつもながら何事もなかったように目をそらされる。

マナはお弁当をもう食べ終わったのか、立ち上がるとトイレの方へ行ってしまった。
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