鏡と夜桜と前世の恋


" 触っちゃ駄目、見るだけ!"




ーー 懐かしい言葉が脳裏に過ぎる。



この記憶は私が近くにある彼岸花の " 花 " に手を伸ばそうとした時、咲夜が必ず言う言葉。



どうして触ると駄目なんだろう… 彼岸花の根に毒があるから?咲夜の考えはいつもわからない。



普段はクールなのに可愛いところのある咲夜の慌てた反応が好きで… 毎年ここに来た時はわざと彼岸花の『花』に触るフリ。



もはや二人だけの恒例行事と言っても良い程、絶対にやるやり取りだったりする。



今年は先に私が着いたから " 触っちゃった " なーんて言いながら少し驚かしちゃおうかな?咲夜はどんな反応するんだろう。



やんちゃで悪戯好きの咲夜に対して珍しく悪戯するチャンス… そんな事を考えているとガサガサと後ろの林から物音がする。



「あ、さ…」



嬉しそうに振り返った雪美の前に現れたのは咲夜ではなく、髪の長い女性… 見るからに怒りを露わにする陽菜が立っていた。



" この手紙を私に送ったのは陽菜 "

咲夜だと思ってたけど… 雪美はこの時点で確信していた。そうよね、咲夜なら行こうって誘いに来てくれるもの。



宛先不明で文なんて送らない。



「あ、陽菜さん」



陽菜の姿を見た雪美は相手の名前を呼んで微笑み軽く会釈をする。



「ねえ、咲夜さんが私との縁談を断ってきたんだけど!貴女ちゃんと咲夜さんに私を忘れて陽菜の所にって言ってくれたの?」



「言いましたよ?ただ咲夜は聞いてはくれませんでした」



" 陽菜さん " と微笑み、その後も落ち着いて話す雪美の態度が気に食わないのか陽菜は雪美に対して怒鳴り、罵声をあげる。



「咲夜さんは貴女には不釣り合い、ただの質屋の金貸しの娘のくせに!」



「貴女のお父上 (藤川) に、ただの質屋から多額の金銭を貸してると思いますが?」



陽菜の圧に怯まず、ワザと惚けた言い方をしてにっこり微笑む雪美。

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