鏡と前世と夜桜の恋
-- 同じ店。
今日も雪美はみたらし団子を食べる。食べきれぬと頭で思っていながらも手と口は止まらない。
甘辛い蜜が指に絡みつく…
拭うことも忘れそのまま口へ運ぶ。
―― 変わらない。
咲夜と約束したあの日と同じ味。
舌に残る甘さまで、何1つ違わない。

" 必ず行くから、待っててくれ "
涙を堪えきれず俯く雪美を、咲夜は強く抱き寄せ、何度も何度も、その頭を撫で… 追いかけると約束した。
なのに咲夜は、一向に来ない。
申又は言う " 咲夜はシんだ " と。処刑され斬られ骨すら残らぬと、まるで事実であるかのように淡々と告げる。
けれど雪美はその言葉を胸に入れぬよう生きていた。申又の話しを信じてしまえば、ここにいる理由が消えてしまう… 待つ理由が無くなってしまうから。
団子屋の軒先は昼下がりの陽に温められ、雪美はいつもの腰掛けに座り、団子を一つ、口に運ぶ。
… その時だった。
「聞いたかい、重罪犯が無罪になったって男の話… 」
背後の卓で皺だらけの手を茶碗に添えた婆が声を潜めた。もう1人の婆が、目を丸くして身を乗り出す。
「聞いた聞いたよ。あんな罪、首が飛んでもおかしくないって言われてたのにさ」
「それが無罪だってんだから世の中どうなってるんだか… 」
雪美の指が団子串を握ったまま止まる。
「裏で相当な力が動いたんだろうねえ」
「すごい話だ、重罪を覆すなんて… ただ者じゃない。そんでもってかなりの色男らしいんだよ」
「あらまあ、やり手だねえ… 」
婆たちは感心したように、すごいわねえ、と何度も頷き合った。
雪美はゆっくりと団子を噛みしめた。
甘さが、今日はやけに遠い。
―― 重罪。無罪。
この言葉だけが、胸の内で静かに転がる。
誰のことを指しているのか名は出ていない。けれど、腑に落ちない違和感だけが喉の奥に引っかかる。
婆たちの声が遠ざかっても、雪美の耳にはあの言葉だけが残っていた。