鏡と前世と夜桜の恋


雪美は何も言わず、視線を団子の白へ落とす。婆たちの噂話は、また別の話題へ移っていったが… そのざわめきだけが、いつまでも耳の奥で消えなかった。

――重罪。無罪。

婆たちの話しを聞いてから、ずっと待ち続けている男の名が胸の奥に浮かび上がる。

" さく "

団子を持つ指先がわずかに震えた。



" 死んだ "

ずっとそう言われ続けた、何度も何度も聞かされていた… それなのに。

無罪になった重罪人。

力を持つ誰かが裏で動いた、ただ者ではない人物… 婆たちの言葉が咲夜の面影と重ねて胸だけが勝手に答えを出そうとする。

雪美は団子を噛み切れず、しばらく口に含んだまま俯いた。


喉を通した途端、胸の奥がきゅっと縮む。

もし。
もしも。

さくが生きているのだとしたら、無罪になったのだとしたら。私は、何も知らされずここで団子を食べているだけで良いの?

雪美はそっと顔を上げ、団子屋から離れ、慌てて待ち合わせ場所に行く。







行き交う人々の背中… そのどれかに、見覚えのある歩き方が混じっていないか無意識に目で追ってしまう。

" ばかね " と胸の内で呟く。
期待してはいけない、それでも。

胸の奥に灯った小さな火は、もう消えてくれなかった。ただの世間話のはずなのに… 頭のどこかに棘のように残っている。


ーー 重罪が、無罪に。

足を止める度、その言葉が浮かぶ。そして必ずその後にあの名が続いてしまう。

" さく… "

雪美は首を振り、考えを振り払うように早足になった。都へ向かう用などない。それでも、気づけば駅へ続く道を歩いている自分がいた。

駅はいつもと変わらぬ騒がしさだった。

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