鏡と前世と夜桜の恋
再び巡り逢えてから、いくつもの月日が流れた。
誰にも知られてはならぬ恋… 咲夜と雪美は、人目を忍んでは密かに、慎重に逢瀬を重ねていた。
朝の森は鳥のさえずりに満ち、木々の葉を揺らす風は穏やかだった。
雪美は誰にも悟られぬよう、京にいる父の手伝いをすると言う口実で森へ向かう。
そのままさらに奥へと歩く… 人ひとりがようやく通れる獣道。
苔むした岩を越え、小川を渡り、木漏れ日を浴びながら進むその先に、小さな丸太造りの家がひっそりと建っていた。
江戸の町では見かけぬ、不思議な造りの家。
森と一つになったその住まいを見つけるたび、雪美の胸は自然と温かくなる。
戸口にはいつも咲夜が座っていた。
「… ゆき」
その一言だけで十分だった。
雪美は駆け寄り、咲夜の胸へ思いっきり飛び込む。
何日も離れていたような気持ちになるのに、離れていたのはたった一晩だけ… それほどまでに、二人はお互いを恋しく思っていた。
「おかえり」
「… ただいま」
夫婦でもない二人が交わす、その言葉。
けれど雪美は、その一言が何より嬉しかった。
家の中は質素だった。

囲炉裏があり、小さな机が一つ、必要最低限のものだけ… 薪の香りが漂い、窓から差し込む光が床を照らす。
贅沢な物など何一つない。
それでも雪美には、この場所こそが帰る家のように思えた。
咲夜は山菜を摘み、川で魚を獲り、雪美は煮炊きをする。
「味はどう?」
「世界一うまい!」
そう言って笑う咲夜を見るたび、雪美もつられて笑顔になった。
何でもない毎日… それなのに、それが夢のように幸せだった。