鏡と前世と夜桜の恋

再び巡り逢えてから、いくつもの月日が流れた。

誰にも知られてはならぬ恋… 咲夜と雪美は、人目を忍んでは密かに、慎重に逢瀬を重ねていた。

朝の森は鳥のさえずりに満ち、木々の葉を揺らす風は穏やかだった。

雪美は誰にも悟られぬよう、京にいる父の手伝いをすると言う口実で森へ向かう。


そのままさらに奥へと歩く… 人ひとりがようやく通れる獣道。

苔むした岩を越え、小川を渡り、木漏れ日を浴びながら進むその先に、小さな丸太造りの家がひっそりと建っていた。

江戸の町では見かけぬ、不思議な造りの家。

森と一つになったその住まいを見つけるたび、雪美の胸は自然と温かくなる。


戸口にはいつも咲夜が座っていた。

「… ゆき」

その一言だけで十分だった。

雪美は駆け寄り、咲夜の胸へ思いっきり飛び込む。

何日も離れていたような気持ちになるのに、離れていたのはたった一晩だけ… それほどまでに、二人はお互いを恋しく思っていた。


「おかえり」

「… ただいま」

夫婦でもない二人が交わす、その言葉。

けれど雪美は、その一言が何より嬉しかった。

家の中は質素だった。







囲炉裏があり、小さな机が一つ、必要最低限のものだけ… 薪の香りが漂い、窓から差し込む光が床を照らす。

贅沢な物など何一つない。

それでも雪美には、この場所こそが帰る家のように思えた。

咲夜は山菜を摘み、川で魚を獲り、雪美は煮炊きをする。

「味はどう?」

「世界一うまい!」

そう言って笑う咲夜を見るたび、雪美もつられて笑顔になった。

何でもない毎日… それなのに、それが夢のように幸せだった。
< 250 / 278 >

この作品をシェア

pagetop