鏡と前世と夜桜の恋
「さく」
「… 何だ」
「私も、本当はずっとあなたの傍にいたい」
それだけ言って雪美は背を向けた。
咲夜は追いかけられなかった。追いかければ今度こそ本当に連れ去ってしまう。
そして雪美が恐れているものを自分の手で引き寄せてしまう… だから、ただ拳を握りしめて立っているしかなかった。
遠ざかる雪美の背中を見つめながら、咲夜は心の中で何度も叫んだ。
" 行かないでくれ "
" 俺の傍にいてくれ "
" ずっと隣で笑っていてくれ "
けれど、その声は届かなかった。
雪美もまた屋敷へ戻る道すがら、何度も胸の内で同じ言葉を繰り返していた。
" あなたと一緒にいたい "
" あなたと離れたくない "
" … もう会いたい "
それでも申又の屋敷へ帰る。
それは愛が弱いからではなく、むしろ咲夜を愛しているからこそだった。
月明かりの下、二人の影は少しずつ離れていく… けれど、その心だけは、どれほど遠くへ離れても互いを追い続けていた。