鏡と前世と夜桜の恋
咲夜が暮らすログハウスは、街から離れた山あいにひっそりと建っていた。

木々に囲まれ道からも外れた場所。人の気配などほとんどない… だからこそ、そこへ続く細い道は妙に目立つ。
歩くのはおすずと陽菜だった。
二人は家の少し手前で足を止め、木々の隙間からログハウスを眺めている。
「咲夜さん出て行ったかと思えばこんなボロ屋に住んでるのかい… 」
おすずが呆れたように呟いた。
その隣で、陽菜は黙って家を見つめていた。
その目には、笑みが浮かんでいる。けれどその笑みは嬉しそうというより… どこか壊れていた。
「私の咲夜さん… 」
陽菜が、小さく名前を呼ぶ。
「迎えに来たよ」
まるで、すぐそこに咲夜がいるかのような声だった。
おすずが横目で陽菜を見る。
「陽菜、今日は咲夜さんを連れて帰るんじゃないよ。あくまで様子を見に来たんだよ!」
「うん」
素直な返事。
だが陽菜の視線は、一向に家から離れない。
「… わかってる。今日は、ね」
腹を優しく摩りながら陽菜は微笑む。
「咲夜さんが、どんな所で暮らしてるのか見てるの」
「羨ましいねえ陽菜、咲夜さんとの子供なんて… 咲夜さん私も孕ませてくれな… 」
「駄目よ、咲夜さんとの子供は私だけなの、婚姻もしたんだからあれは完全に私の所有物、私以外なんて絶対許さない!!」
おすずは腕を組んだ。
ここまで辿り着けたのには理由がある… 申又に使える男が、雪美の跡をつけた。
雪美がどこへ向かうのか、何をしているのか… その先に咲夜がいることを、簡単に突き止めた。
「それにしてもまさか小娘の後を追って、こんな山奥まで来るとはねえ… 」
おすずがぼそりと言う。
陽菜は答えなかった。
ただ、家の窓をじっと見つめている。
カーテンの向こう… そこに咲夜がいるのかもしれない、そう思うだけで陽菜の口元がさらに緩んだ。
「… 咲夜さん、今いるのかなあ」
「さあね」
「いるよ」
即答した陽菜におすずが眉をひそめる。
「なんで分かるんだい?」
「咲夜さんのことなら何でも分かるの」
陽菜は笑った。
その言葉には疑いというものが一切なかった、まるで咲夜の心まで、自分のものだと言わんばかりに。
陽菜は一歩、家へ近づこうとした。
だが、おすずが慌てて腕を掴む。
「待ちな!!」
「どうして?咲夜さんにもこの子のこと報告しないと」