鏡と前世と夜桜の恋
雪美の父は咲夜のことを考える暇もなく、雪美のもとへ駆け寄った。
「頼む、間に合ってくれ… 」
雪美の父は雪美の容態を慎重に確認しながら、できる限り傷を押さえ、出血を止めようとする。

「しっかりしろ!雪美、聞こえるか!?」
返事はない。
「父さんはここにいるぞ!」
声が震える。
「頼むから… 生きてくれ… 」
さっきまで娘との未来を語っていた咲夜が… 自分が代わりに逝き、雪美の命を繋ぎ止めようとしている… そう感じた。
布団の上からだったことで傷口はまだ浅い… 雪美の父は諦めず、布や湯、薬、必要な道具を次々と持ち込み、雪美の処置をした。
「雪美… 」
先ほどまで咲夜を抱いていた手が、今度は震えながら娘へと伸びる。
「お前まで… 父さんを置いていくなよ… 」
「頼むから、戻って来てくれ… 」
その目から涙が落ちる。
すぐ横には雪美の為に人生を捧げた咲夜がいる、その隣では雪美がまだ生きている… 雪美の父は二人を見つめた。
「… 咲夜」
小さく呟く。
「お前が守ると言った俺の娘だ」
雪美は弱々しく呼吸を続けている。
「風華って… 子の名前まで考えてくれたんだぞ… 」
父は涙を拭った。
「だったら… その未来まで、勝手に終わらせるな… 」
雪美の父は二人の手を握り締めた。
「生きろ、雪美… 」
「お前だけでも、生きててくれ… 」
病室の中では、懸命な処置が続いた。
雪美はまだ目を覚まさない。
けれど――
確かに、生きている。
咲夜がいなくなった世界で。

雪美だけがまだ、二人が夢見た未来を繋ぐ最後の命として静かに息をしていた。
何日も何日も…
雪美は目を覚まさなかった。
