鏡と前世と夜桜の恋
そして、雪美を見つめる。
「でも… 」
涙を流しながら、微笑んだ。
「一人になるのはもう嫌なんだ。ゆきのいないところで… 生きていけるほど、俺は強くない」

「ゆき、愛してるよ… 」
雪美の父が駆け寄る。
「やめろ咲夜、早まるな!!」
しかし、間に合わなかった。
その後、部屋には咲夜の首から流れる紅が血溜まりを作り、ただ短い沈黙だけが残った。
雪美の父は立ち尽くした。
「咲夜… 」
返事はない。
「おい、咲夜…!! 」
肩を揺らしても、もう答えは返ってこず、咲夜は雪美のすぐそばで息を引き取っていた。
最後の最後まで雪美から離れなかった。
父は震える手で咲夜の肩を抱く。
「このたわけ者が… 」
声が震えた。
「雪美を置いて先に逝ってどうする… 守るって約束しただろうが… 」
けれど、咲夜はもう答えない。
布団の上では雪美が眠り続け、二人の間にはほんのわずかな距離しかない。
なのに――
もう二人が言葉を交わすことは二度とない。
" 風華 " という名前も。
" ずっと一緒 " という約束も。
京を離れて二人で暮らすという未来も。
全て届かない場所へ消えてしまった。
父は二人を見つめながら、静かに涙を流した。
「お前たちは本当に… 」
雪美の父は、崩れ落ちた咲夜を抱えたまま動けなかった。
咲夜も雪美ももう返事をしない。
「どうして… 」
震える声が漏れる。
雪美の父の手から力が抜けた、そのときだった。
――ふと。
すぐ隣からかすかな音がし、雪美の父は慌てて顔を上げる。
「…ゆ、雪美!?」
布団の上。
雪美はまだ目を閉じたままだった。
けれど――
胸がほんのわずかに上下している。
「… !!」
父の顔色が変わった。
「雪美!!!」
慌てて雪美の顔を覗き込む。
「生きている… 」
震える指で呼吸を確かめる。
弱い。
それでも確かに息をしている。