優しく笑う君が好きだから
君と過ごす日々

勇気

 帰りのホームルームを終えた後、ずっと気になって仕方なかった早乙女さんの様子を確認した。安心した。早乙女さんの親友の浦田さんと楽しそうに話をしていた。そして、浦田さんは部活に向かった。
 たしか今日は吹奏楽部の友達がオフだと言っていた。だとしたら、早乙女さんは家へ帰るだけだろう。少し声をかけてみようか。今ならまだ間に合う。彼女は、僕の隣の席で本を読んでいた。藤原さんたちも教室から出ていった後だったので、チャンスだ。僕は勇気を振り絞って声をかけることにした。
「あのさ、この後ひま?」
急に話しかけたからさ少し驚かせてしまったようだ。びっくりして、無言でこちらを見ている。
「あ、ごめん。急にもしよかったらなんだけどさ…」
想定外の展開に言葉が詰まる。
「…カ、カフェ!駅前に新しく出来たらしいから!」
早乙女さんはさらに目を丸くした。そして、意外にも早く口が動いた。
「いいよ」
これは、もっと想定外だった。嬉しくてガッツポーズをしそうになったが、こんなところで恥はかきたくないので、うずうずする左手を必死に抑えた。
 そして、僕は今教室で軽く話をして帰るはずだったのに、あの早乙女さんと2人でレトロチックでお洒落なカフェにいる。とてもじゃないけれど、僕には似合わない。早乙女さんは長いポニーテールとセーラー服でこのカフェといい感じに馴染んでいる。流石だなと、さらに好きになった。
< 8 / 26 >

この作品をシェア

pagetop