青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
「それで、退院はいつごろ?」
「過労もあるようですから、今日はゆっくり休んでいってください。明日の昼ということにしましょう」
よけいなことを正直に言わなければ良かったかと史香は後悔した。
「今日では駄目ですか」
「そういった焦りも体には良くありませんよ」
「会社に連絡しないと」
「ああ、それでしたら」と、お医者さんがサイドテーブルの名刺を指した。「こちらの道源寺さんが社員証に書いてあった会社に連絡をしてくださったようですよ」
「え、そうなんですか」
それは大変申し訳ないことをさせてしまったと恐縮していると、お医者さんが思いがけないことを言い出した。
「ある意味、運が良かったかもしれませんよ。道源寺さんの車が通りかかって、直接ここに搬送されたのですから」
「あの」と、史香は名刺を取り上げてたずねた。「道源寺さんという方はどのような方なんですか?」
「ここの病院のオーナーです」
オーナーってどういうこと?
「この病院は道源寺グループの経営なんですよ。正確に言えば、蒼馬さんはグループを統括する社長の息子さんです」
病気の診断名と同じで、言い方を変えてもらってもやっぱり分からない。
なんかすごいお金持ちっぽい感じなんだろうか。
先生が口に拳を当てて咳払いをした。
「その道源寺さんですが、お見舞いに伺いたいそうですが、どうしますか」
「ああ、そうなんですか。では、よろしくお伝えください」
倒れていたところをわざわざ病院まで運んでくださったのだからお礼を言っておいた方がいいだろう。
そういえば、スマホはどうしたのかな。
「私の荷物はどこかにありますか?」
「こちらのロッカーにあると思いますよ」と、お医者さんが作り付けの戸棚の扉を開けてくれた。
まるで自分の家のクローゼットであるかのように服と鞄とピカピカに磨かれた靴がそろえて並べられている。
「私の方からの説明は以上です。他に何かあれば看護師を通じていつでもお呼びください」
「はい、ありがとうございました」
石本医師が出て行った後、史香はベッドから下りて鞄の中を見てみた。
スマホは入っているけど充電が切れている。
枕元のコンセントに電源コードをつないでスマホをつけると、連絡済みだからか、仕事関係のメッセージは入っていなかった。
――ふう。
過労は良くないって言われたけど、私にはどうしようもないよね。
張り詰めていた糸が切れてしまうと、やりがいも興味も責任感も失われてしまう。
これまで頑張ってきたことが急に色あせていく。
学生時代は勉強一筋、先生の言うことに従って良い成績を取れば褒められた。
社会人になっても仕事ばかり。
趣味もない、カレシなんていたこともない。
今まで全然おかしなことだとも思わなかったけど、どこかで心も体も悲鳴を上げていたのかな。
でも、今さら、どうすればいいの?
なんか、もういいや。
会社に連絡する気も失せてしまい、史香はスマホを布団の上に投げ出して目を閉じた。
「過労もあるようですから、今日はゆっくり休んでいってください。明日の昼ということにしましょう」
よけいなことを正直に言わなければ良かったかと史香は後悔した。
「今日では駄目ですか」
「そういった焦りも体には良くありませんよ」
「会社に連絡しないと」
「ああ、それでしたら」と、お医者さんがサイドテーブルの名刺を指した。「こちらの道源寺さんが社員証に書いてあった会社に連絡をしてくださったようですよ」
「え、そうなんですか」
それは大変申し訳ないことをさせてしまったと恐縮していると、お医者さんが思いがけないことを言い出した。
「ある意味、運が良かったかもしれませんよ。道源寺さんの車が通りかかって、直接ここに搬送されたのですから」
「あの」と、史香は名刺を取り上げてたずねた。「道源寺さんという方はどのような方なんですか?」
「ここの病院のオーナーです」
オーナーってどういうこと?
「この病院は道源寺グループの経営なんですよ。正確に言えば、蒼馬さんはグループを統括する社長の息子さんです」
病気の診断名と同じで、言い方を変えてもらってもやっぱり分からない。
なんかすごいお金持ちっぽい感じなんだろうか。
先生が口に拳を当てて咳払いをした。
「その道源寺さんですが、お見舞いに伺いたいそうですが、どうしますか」
「ああ、そうなんですか。では、よろしくお伝えください」
倒れていたところをわざわざ病院まで運んでくださったのだからお礼を言っておいた方がいいだろう。
そういえば、スマホはどうしたのかな。
「私の荷物はどこかにありますか?」
「こちらのロッカーにあると思いますよ」と、お医者さんが作り付けの戸棚の扉を開けてくれた。
まるで自分の家のクローゼットであるかのように服と鞄とピカピカに磨かれた靴がそろえて並べられている。
「私の方からの説明は以上です。他に何かあれば看護師を通じていつでもお呼びください」
「はい、ありがとうございました」
石本医師が出て行った後、史香はベッドから下りて鞄の中を見てみた。
スマホは入っているけど充電が切れている。
枕元のコンセントに電源コードをつないでスマホをつけると、連絡済みだからか、仕事関係のメッセージは入っていなかった。
――ふう。
過労は良くないって言われたけど、私にはどうしようもないよね。
張り詰めていた糸が切れてしまうと、やりがいも興味も責任感も失われてしまう。
これまで頑張ってきたことが急に色あせていく。
学生時代は勉強一筋、先生の言うことに従って良い成績を取れば褒められた。
社会人になっても仕事ばかり。
趣味もない、カレシなんていたこともない。
今まで全然おかしなことだとも思わなかったけど、どこかで心も体も悲鳴を上げていたのかな。
でも、今さら、どうすればいいの?
なんか、もういいや。
会社に連絡する気も失せてしまい、史香はスマホを布団の上に投げ出して目を閉じた。