青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
 そんなことを考えながら窓に映る蒼馬をこっそり眺めていると、その顔が近づいてきた。

「本当は俺たち十年前に出会っていたはずなんじゃないかな」

 ――これって……。

 史香はすぐに気がついた。

 さっき見たばかりの映画の場面を再現しているのだ。

 事故で亡くなった十年後に彼女の前に現れた男が、自分と彼女との関係をほのめかす台詞だ。

「さっきは台本なんかないって言ってませんでした?」

「ごめん」と、蒼馬が映画の二人と同じように史香と頬を触れ合わせる。「嘘だったね」

 照れくささをごまかすために、史香は映画の台詞を思い出して棒読みの演技で返した。

「私もそんな気がしてた」

 ――本当に、ずっと前に出会っていたら良かったのに。

 里桜の台詞を自分の本心みたいに言ってしまった。

 自分にはこんな台詞、似合うはずないのに。

 だけど蒼馬は、真剣な表情で再現を続ける。

「あの一つ一つの明かりが俺たちの思い出が灯した光なんだよ」

 これはラストシーンで、まさに、この展望台にいた二人の間で交わされた台詞だ。

「数え切れないくらいの思い出を積み重ねてきたのね、私たち」

 映画そのままの台詞を返したところで、思わず史香は笑ってしまった。

「カット」と、指を鳴らして蒼馬も笑う。「一番いいところでNG出したらだめだろ」

「だって、私たち、まだ一つも思い出なんか作ってないじゃないですか」

「じゃあ、一緒に作ってくれる?」

 ――え?

 返事に詰まってしまった史香を眺めて蒼馬がニヤけている。

「アドリブは苦手?」

 思わず顔が熱くなる。

「じゃあ、ここからは演技じゃなくていいよ」

 いやいや、そっちの方が無理なんですけど。

「今ここで永遠の愛を誓おう」

「あ、はい」

 演技とも冗談とも分からない言葉を言われて思わずうなずいてしまった。

「じゃあ、俺と結婚してくれ」

 ――え?

 ええっ?

 こんなの映画の台詞にもなかったじゃないの。

 蒼馬の唇が呆けた史香の口をふさごうとする。

 背中に手が回される前に史香は一歩後ずさった。

「まだ信じられない?」

「ええ、まあ、それは」

「俺はずっと本当のことを言ってただろ。一目惚れだって」

 真剣なまなざしが史香の目を射抜く。

 蒼馬の気持ちが嘘じゃないことは分かる。

 だけど自分に自信がないから信じられない。

 恋なんかしたことないし、誰かを好きになったこともない。

 だから、今自分の胸に芽生えているこの気持ちが本当にそうなのかどうかすら分からない。

 信じたい。

 だまされてもいい。

 むしろ、だましてほしい。

 なのに、最後の一歩を、臆病な自分が引き留めてしまう。

 できることなら目をつむって蒼馬に飛び込んでいきたいのに。

 映画みたいに二人で夜景に溶け込んでいけたらいいのに。

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