青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
 蒼馬は軽く手を挙げ、カウンターの離れた場所に控えていた係員を呼んだ。

「シャンパンは?」

 たずねられて史香は顔の前で手を振った。

「もう、お酒は十分です」

 思えば昼から何杯飲んだだろう。

「俺は一杯だけもらおうかな」

 蒼馬はほんのり顔を赤く染めていても、まだそれほど酔ってはいないようだった。

 ナッツをつまむ指先もしっかりしている。

 蒼馬のシャンパンが来るまで、史香は自分のことを思い起こしていた。

 学生時代の自分には、甘いものであれ、苦いものであれ、異性との思い出がない。

 夜景の広がる窓に史香の顔が映っている。

 自分の顔は平凡そのものだ。

 愛嬌はないし、もちろん、美人でもない。

 学校を卒業したら一番顔を思い出してもらえなさそうなタイプとか、マイナンバーカードの見本写真に採用されそうな平均的な顔としか言いようがない。

 目の前でナッツを噛んでいる男を眺めながら史香は自分自身の心の中へと沈んでいった。

 いったい、この人は私のどこが気に入ったというのだろう。

 ただ単にもてあそびたいだけなら、他にもっと美人はいくらでもいるだろうし、財産や地位を考えれば、久永里桜以外にも言い寄ってくる女性はいくらでもいるのではないだろうか。

 ――退屈しのぎ。

 史香をパーティーに呼ぶ目的を、そんなふうに言っていたことを思い出す。

「退屈なんですか?」

 思い浮かんだ言葉をついそのまま聞いてしまった。

「え?」

 唐突な話題に戸惑う蒼馬に、また知らなかった隙のある一面を見た気がした。

「私みたいな女に興味を持つ理由が分からなくて」

「まだ疑ってるんだね」

 頬を引きつらせるように寂しげな笑みを浮かべながら、蒼馬は出されたシャンパンを一息で飲み干した。

「たしかに退屈かもしれないな。パーティーだのなんだのと、そこに呼ばれるのは他人が選んだ誰かばかり。自分が会いたい人じゃない。見るべき物しか見させてもらえない人生なんて、退屈だよ」

「だから偶然の出会いに賭けようとしてるんですか」

「偶然だからといって軽く考えているわけじゃないよ」と、蒼馬はカウンターに置かれた史香の手に自分の手を重ねた。「たしかに出会いはただの偶然だった。車がツインタワーの交差点に止まった時に、君が倒れて俺が助けた。そんなの誰にだって予想できなかっただろうさ。だけど、出会いっていうのは、すべて偶然なんじゃないのか? 交差点での出会いほどドラマティックではないとしても、たとえば、誰かに紹介される場合でも、少なくとも、その直前まではどうなる運命なのかまるで知らないわけだからね」

 言いたいことは分かる。

 ただ、その理屈だと、退屈な人生に私を引き込みたいのかと文句の一つも言いたくなる。

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