乳房星(たらちねぼし)−1・0

【憎みきれないろくでなし】

10月14日から16日までの間、A・Bの2班のメンバーたちは那覇国際本社のオフィスビルの工事現場でお仕事をする予定である。

時は、10月15日の午前11時頃であった。

ダイワロイネットホテルのキッチン付きの豪華スイートルームにはゆきさんと20人の子守女さんたちがいた。

ゆきさんは、ソニーバイオ(ノートパソコン)に内蔵されている家計簿ソフトをひらいて家計簿の整理をしていた。

子守女さんたちは、掃除などの雑用をしていた。

またところ変わって、ハーバービュー通りにある那覇国際本社のオフィスビルの工事現場にて…

A・Bの2班のメンバーたちは、大手ゼネコン建設会社の担当者さまたちと一緒に設計図を見ながら工事の進ちょく状況などを確認していた。

午後は、那覇市内《しない》にある三浦工業《みうら》の支店の担当者さまたちと一緒にボイラー機種の設置工事などの打ち合わせを行う予定である。

またところ変わって、ダイワロイネットホテルのキッチン付きの豪華スイートルームにて…

コインランドリーに洗濯に行ってた風香《フー》ちゃんが部屋に帰って来た。

この時、濃いネイビーのスーツ姿の明憲《ムコハン》が風香《フー》ちゃんにつづいて部屋に入った。

「ただいま帰りました〜」
「風香《フー》ちゃんおかえりなさい。」
「途中で、明憲《あきのり》さんとお会いしたので…お連れいたしました。」
「そう。」

ものすごくめんどくさい表情を浮かべているゆきさんは、ノートパソコンをとじたあと席を立った。

洗濯物が入っている大きめの手さげを持っている風香《フー》ちゃんは、特大広間にあがったあと洗濯物の整理を始めた。

ゆきさんは、ものすごくめんどくさい表情で明憲《ムコハン》に言うた。

「あんた。」
「ゆき。」
「ここになにしに来たのよ!?」
「おれは、日帰りの出張で来たのだよ~」
「(ゆきさん、めんどくさい声で言う)日帰りの出張〜」
「うん…少し時間があるからここに立ち寄った。」
「あっ、そう〜」

ゆきさんは、デスクの上に置かれていた黒のサーモスのタンブラーを手にしたあと、中に入っている麦茶をひとくちのんだ。

麦茶をひとくちのんだゆきさんは、タンブラーのフタを閉じながら明憲《ムコハン》に言うた。

「話かわるけど、哲人《てつと》はどうしてるのよ?」
「どうしてるって…いつも通りに大学の研究所にいるよ…」

明憲《ムコハン》が言うた言葉に対して、ゆきさんはものすごくあつかましい声で言うた。

「あの子は浮き世のせちがらさをなめているわよ!!」
「えっ?」
「(ものすごく怒った声で言う)あの子は浮き世のせちがらさをなめている…と言うたのよ!!」
「なんで?」
「哲人《てつと》が大学でどんな研究をしていたのかは知らへんけど、あの子はえらそうな顔をしているわよ!!」
「ゆき…哲人《てつと》は大学の研究所の主任なんだよ…」
「主任だからなんじゃあ言うのよ!!」
「ゆき、なにを怒っているのだよ〜」
「あの子は、誰のおかげで京都の大学に行くことができたのかを分かっていないのよ!!」
「哲人《てつと》は子供じゃないのだよ〜」
「哲人《てつと》が何歳《なんぼ》であろうと、まだ子供よ!!」
「子供…」
「そうよ!!あの子は、『ぼくのリロンはカンペキだ!!』と言うて思い上がっているのよ!!」

ゆきさんは、再びサーモスのタンブラーを手にしたあとフタをあけて麦茶をごくごくとのみほした。

(パチ…コト…)

ゆきさんは、タンブラーのフタをしめたあとデスクの上に置いた。

明憲《ムコハン》は、困った表情でゆきさんに言うた。

「ゆき。」
「なんやねん!!」
「哲人《てつと》と(カノジョ)さんの婚姻届はどうするのだ?」
「またその話!!」
「ゆき。」
「あなたは哲人《てつと》を幸せにしてあげたいと思うけど、君波《うち》の親族一同は、いかなる形であっても哲人《てつと》が結婚することには猛反対よ!!」
「なんで反対するのだよ〜」
「はぐいたらしいムコね!!反対と言うたら反対よ!!」
「だからなんで反対なんだよ〜」
「君波《うち》の親族一同が猛反対を唱えているからできないのよ!!」

明憲《ムコハン》は、スーツの内ポケットから茶封筒《ふうとう》を取り出した。

明憲《ムコハン》は、ものすごく困った声でゆきさんに言うた。

「ゆき、おれは…(カノジョ)さんのおじい様から頼まれているのだよ〜」

ゆきさんは、怒った声で言うた。

「それはなによ!?」
「婚姻届《ショメン》だよ〜」
「より強く拒否するわよ!!」
「どうして拒否するのだよ〜」
「哲人《てつと》は子どもだからよ!!」
「子どもじゃないよ〜」
「やかましいドアホ!!」
「ゆき。」
「(カノジョ)さんの親御さんが許すと言うても、君波《うち》の親類一同がアカンと言うてるのよ!!あんたは君波《うち》のイリムコのくせに君波《うち》にテイコウする気ね!!」
「テイコウしてないよ〜」
「あんた!!」
「ゆき、(カノジョ)の親御さんはさいしょは残念だとは言うたけど、(カノジョ)さんを信じると言うてるのだよ~」
「それなら、あんたの職場にいる男性従業員《わかいしゅう》に回しなさいよ!!」
「回せって…」
「そないに婚姻届《ショメン》をかけと言うのであれば、あんたの職場の男性従業員《わかいしゅう》に変更してよ!!」
「うちの男性従業員《わかいしゅう》は…(お給料が)ヤスイのだよ〜」
「あなた!!」
「うちの会社は、ケイヒセツヤクで…」
「いいわけ言うなドアホ!!」
「ゆき。」
「お給料が安いからなんじゃあ言いたいのよ!!」
「だから、少ないお給料ではお嫁さんを養えないのだよ…」
「ほな、(カノジョ)さんがパートに出たらええだけや!!」
「(カノジョ)さんは専業主婦で通したいと言うてるのだよ〜」
「ますますはぐいたらしいわね!!哲人《てつと》と言い(カノジョ)さんと言い…甘ったれてるわよ!!」

この時、エプロン姿の風香《フー》ちゃんがとうの買い物かごを持ってゆきさんのもとにやって来た。

「買い出しに行ってきます〜」
「気をつけてね。」

このあと、風香《フー》ちゃんは買い物かごを持って部屋の外に出た。

その後、ゆきさんは怒った声で明憲《ムコハン》に言うた。

「あんたは、恋愛と結婚は一緒だと言うたわね!!」
「言うてないよ〜」
「ほな、あんたはなんでうちと再婚して君波《うち》のイリムコになったのよ!!」
「なんでって…」
「あんた、ほんとうは恋愛結婚がしたかったのでしょ!!」
「したかったけど…近くに相手がいなかった…」
「なさけないわね!!」
「小学生〜中学生までの同い年の女の子たちは…みーんな冷たい女ばかりだったからできなかった!!」
「悪かったわね!!うちかて冷たい女よ!!…それよりもあんた!!」
「何だよ~」
「あんたは、出張でここに来たのでしょ!!」
「来たけど…こわいのだよ〜」
「こわい…なにが怖いねん!?」
「得意先にあやまりに行くのが怖いねん~」
「なさけないわね!!」
「部下が勝手なことをしたことが原因で…得意先に大損害が出たのだよ…」
「ほんならはやくわびに行きなさいよ!!」
「行きたいけど…怖いねん…」
「ますますはぐいたらしいわね!!甘えるんじゃないわよドアホ!!」
「ほんとうにこわいのだよ…」
「あんたはなにが怖いのよ!!」
「取り引きをうしなうのがこわいのだよ〜」
「せやけんうちはあんたが大キライなのよ!!もうドサイアクだわ!!」

ゆきさんは、ものすごく鋭い目つきで明憲《ムコハン》をにらみながら言うた。

「うちかてひとのことが言えた義理じゃないわよ…せやけど、うちは悪いなりにここまで生きてきたのよ!!」
「ゆき…」
「うちかて、恋愛結婚《けっこん》で大失敗したわよ!!甲南山手《こうべ》の女子大に通っていた時に知人の紹介であんた以上にドサイアクなチャラ男《お》と知り合って…その勢いで結婚を決めた…おとーちゃんとおかーちゃんとゆりねーちゃんたちの猛反対を押し切って…カレと一緒に戸畑《きたきゅうしゅう》へ逃げた…そこでカレと結婚生活をした…けど…最初に生まれた娘を殺された…うちもコンクリ詰めに遭いそうになった…そないなったのは、あのクソチャラ男の交友関係が劇悪だったからよ!!」
「ゆき。」

ゆきさんの両目が真っ赤に染まっていた。

真っ赤に染まった両目から血の涙が大量に溢れ出た。

ゆきさんは、声を震わせながら明憲《ムコハン》に言うた。

「あんたはどこのどこまで弱虫よ!!…せやけんあんたは周りの意見に流されたのよ!!…恋愛結婚したかったと言うのであればなんで行動に移さなかったのよ!?」
「せやから、周りがじっと待ってろと言うたから…」
「せやけん、うちみたいな冷たい女しかいなかったのよ!!」
「………………」
「うち、あんたのことはものすごく大キライよ!!…そないにうちがイヤなら…子どもたちを連れて君波《うち》から出ていきなさいよ!!…うちはあんたとリコンしてもどーたことないから…もう一度いうけど、哲人《てつと》は…いかなる形であっても…君波《うち》の親族一同は満場一致で猛反対よ!!…せやけん、婚姻届《ショメン》を出さないわよ!!」
「困るよ~」
「君波《うち》には嫁は必要ないのよ!!(カノジョ)の親御《おや》が許すと言うても君波《うち》の親族一同は猛反対よ!!」
「ゆき…」
「なんやねんあんたは!!君波《うち》のやり方が気に入らないのであれば即リエンよ!!」

ゆきさんは、全身をブルブルと震わせながら怒り狂った。

明憲《ムコハン》は、ものすごく困った表情でゆきさんを見つめた。

このあと、明憲《ムコハン》は会社から命ぜられたお仕事を放棄した。

職務放棄した明憲《ムコハン》は、帰りの飛行機に乗る時間まで那覇市内《しない》をブラブラと歩き回った。
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