私が一番近かったのに…
「…もう遅いよ。なかったことになんてできないよ……」

聞きたくなかった。もう後戻りはできない。ヒリヒリと胸の痛みが広がっていった…。


           ◇


『愁は大平さんのこと、好きだったんだよ』

あの日以来、頭から消えずにいた。
愁を見る度に、この言葉が脳内を何度も過ぎる。

「幸奈…?」

バイト中だということを忘れてしまうほど、私の心はここに在らずだった。
そうなってしまった原因でもある張本人に、心配される始末だ。

「…ごめん。考え事してた」

幸いミスはなかったが、今は仕事中だ。いつまでもぼーっとしていられならない。ダメだ、上手く切り替えないと…。

「本当に大丈夫か?あまり無理はするなよ。
それにしても珍しいな。幸奈が仕事中に考え事なんて」

全部、あなたのせいだ。責任を取ってほしい。もうあなたには大切な人がいますけど…。
この距離がもどかしい。今すぐにでもあなたを奪ってしまいたい。
もう誰にも渡さないように、誰の目にも触れないようにして…。

「そう…かな?大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

どうしてだろう。もっと素直になりたいのに、強がってしまうのは…。

「ならよかったよ。あ!そうだ!今日はちゃんと一緒に帰れるからな。先に帰ったりするなよ。絶対に俺のことを待ってろよ」

そんなに優しくしないでよ。そんなふうに優しくされると、あの言葉が脳裏を過ぎってしまう。
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