かつて女の子だった人たちへ
ライブの後は物販だ。チェキ券は約束通り10枚分を10回ループする予定だ。
しかし、レイキの列は5、6人で終わってしまった。そもそも今日の現場の客は30人ほど。レイキの列を締めるというスタッフの告知が聞こえ、芽里は慌ててチェキ券を持っていった。まだループ5回目だがいいのだろうか。

「メリーさん!」

レイキは芽里を見て、今日も満面の笑みを見せる。

「レイキ! 今日も最高だったよ」

スタッフに促され、チェキを撮影しながら会話する。芽里もレイキも、気が緩んだ笑顔になってしまうのは仕方ないだろう。芽里はこそっとレイキにささやく。

「ね、レイキ。私が贈ったブレスレット、SNSにあげた写真に写ってたよ。匂わせはいけませーん」
「ええ~? 駄目? 嬉しくてつけちゃった」
「アイドルはひとりを特別扱いしないんだよ」
「でも、メリーさんは俺の特別だし」

レイキは気づいたような顔になり、芽里に提案する。

「ね、今日はお姫様だっこ。どうかな?」
「ええ~? 前もやったじゃない! 次の日、腕痛かったでしょ!?」
「全然だよ。メリーさん軽いもん。あとさ、指チュー知ってる?」

知っている。指を挟んでキスをするものだ。
芽里は顔がほてってくるのを感じる。これは純粋に恥ずかしいからだ。色恋の気持ちじゃない。

「ね。しよ。メリーさん」
「レイキが言うなら……仕方ないなあ」

客の男の身体に触れたり、身体を触られるのは、不快さこそあれドキドキもしないし、気持ちよくもない。

(だけどレイキは駄目。近づいただけで心臓が壊れちゃいそう)

指を挟んでのキスは、ファーストキスより緊張したし興奮した。レイキはどう思っているのだろう。

「DM、またするね」

レイキは最後の一枚のときにこうささやいた。芽里の耳元で。
本当に心臓が止まってしまいそうだった。
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