かつて女の子だった人たちへ
後日、令美は新宿駅近くで敬士を待っていた。
先日の出会いから二週間、ほぼ毎日のようにメッセージのやりとりはしている。日常の些細な話題がメインで、弓の話など一度も出ていない。それで不自然ではないのだから、彼の気持ちはお察しというものだ。
敬士は時間ぴったりにやってきた。

「レミちゃん」
「名前で呼ばれると恥ずかしいね」
「メッセではいつも名前呼びだろ」

親しげに笑いかけてくる。距離の縮まり方は二度目とは思えない。令美の予定通りだ。

「仁藤さんのことで相談があるんだよね」

一応、名目上は弓を理由に呼び出したけれど、敬士は令美の思惑を理解しているように見えた。

「そう。弓は私の大事な幼馴染だから、弓が好きになりそうな男性が変な人じゃ困るの」
「うんうん」
「弓に似合う男性か、私がチェックします」

悪戯っぽく笑って見上げると、敬士が目を細め、口角をにいっとあげた。なんだ、この男もちゃんと下心のありそうな顔をするじゃない。令美は弓にも敬士にも勝ったような気持ちを感じる。

「どうやってチェックするの?」

そう言って、令美の腰を抱いてきた敬士。令美は抗わず、頭を持たせかけた。

「ありとあらゆる方法で」

甘く響く誘いの言葉を追加して。



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