かつて女の子だった人たちへ
令美には家族ででかけた記憶がない。外食も旅行も、母とは経験があるが、父は同行しなかった。運動会も発表会も、父の姿はない。
可愛い自分が手に入れられないものを、不細工で愚鈍な弓が持っているのはどうにも我慢ならなかった。
弓は常に自分の下にいなければいけない。

令美の心に弓を見下す心はとうに生まれていた。いつしか自然と「どちらが上であるか」を意識させるような行動を取り始めていた。

幼稚舎ではうまく立ち回り、クレヨンでもおもちゃでも絵本でも、自分がほしいものはすべて弓から手に入れた。弓は気が弱く、強く出ればどんなものも必ず譲ってくれた。

小学校時代には、弓に頼んで読書感想文を譲ってもらった。弓の書いたとおりに自分の字で書きなおしたそれはコンクールの最優秀賞を取った。令美が感謝の言葉を述べただけで、弓は自分の手柄にならなかったというのに満足そうにしていた。令美は幼馴染の純朴さをあざ笑った。
弓の友人たちをそそのかし、弓を仲間外れにしようと画策したこともある。しかし、弓はあまり気にした様子もなく、他の友人と遊んでいた。どうやら弓は身も心も鈍感なようで、自分が仲間からはずされる悲しみを理解しえないようだった。これは失敗だと思い、令美は自分が主犯だとバレないうちに手を引いた。仕方ない。弓は馬鹿なのだから。
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