かつて女の子だった人たちへ
数日後のことである。十八時過ぎ、令美はオフィスで仕事をしていた。最近、どうしても定時で仕事が終わらない。
露骨に後輩が距離を取ってくるので、仕事が振れないのだ。令美をかまってくる男性社員のお喋りに付き合う時間もないし、そういった気分にもなれない。

スマホで位置情報を見る。敬士は今日もオフィスにいると表示されている。少なくとも先日の銀座のようなことはないのだろう。

敬士は毎日相変わらず遅い。こんなに毎日遅いのは普通なのだろうか。部署は違っても同じ会社の弓ならわかるかもしれないが、そんなことを聞いて不仲だと思われたくない。
さらに敬士は土日もよく出かける。FX取引のことで、紹介してくれた先輩に会っているそうだ。『先輩の紹介で、今、顔を広げている最中だから』と敬士は偉そうに言う。どうやら、そういったメンバーが集まるクラブやBARに顔を出し、仲間入りをさせてもらっているようだ。今週末も出かけるそうだが、敬士の私服にはタグを仕込むことができないので位置情報が取れない。信じる以外なさそうだが、スマホにステルスアプリを入れようか検討している。

(家賃と水光熱費、来月分のをもらわなきゃ)

最初の二ヶ月は令美がまとめて払った。今月分は払ってくれたけれど、来月分はどうだろうか。最近、『付き合いが多くて金がない』とよくこぼしている。
一方で、『ボーナスが出たら海外に行こう』『令美と本場のカジノを味わってみたい』などと羽振りのいいことも言う。それこそ、お仲間に射幸心を煽られているのかもしれない。
< 39 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop