かつて女の子だった人たちへ
意味がわからず、震える脚で敬士に歩み寄る。しかし、どんと肩を押され、突き飛ばされた。尻もちをつくほどではなかったが、明らかな拒絶である。

「もういいわ。おまえとは終わり。バイバイ」
「敬士ッ!」
「あ、おまえ知ってる? 仁藤さん、結婚するんだよ。来週には旦那の転勤についてオーストラリアだってさ」

捨てゼリフのような言葉に令美は固まった。

弓が結婚? 敬士に片想いしていたのはわずか三ヶ月前だ。それから恋人ができて、結婚まで話が進んだというのだろうか。にわかには信じがたい。

敬士は令美に背を向け、足早に細い小路を出ていった。ネオンの薄明かりしかない路地で、令美は額の焼けるような疼きを感じながら呆然と立ち尽くしていた。

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