かつて女の子だった人たちへ
『仁藤さん、社内に友達多いじゃん。社外でもいいんだ。誰かいい子いない?』

弓は社内では人格者で通っている。ふたつ上の先輩で恋人でもある桐谷も、弓の穏やかで敵を作らない性格を好いてくれている。

(こんな男に誰かを紹介したら私の株が下がってしまう)

冷静に考えながら、ふと令美の顔が浮かんだ。
令美。しばらく連絡を取っていない幼馴染。
恋人ができてからは、その存在を知られたくないという気持ちもあり、食事などに誘うこともなかった。
令美は変わっていないだろうか。美意識の頂点に立ち、周囲を睥睨し、そして弓の大事なものをふさわしくないと平気な顔で略奪していく。

『松田くん、私の幼馴染、すごく美人だよ。紹介しようか?』
『え? 本当? 紹介してして』
『いいよ。でも自分で口説いてね。そう、彼女ね、恋にスパイスを求めるタイプなの。松田くんが私に気がある雰囲気を出せば、すぐに食いついてくるはずよ』

弓は誰に対しても見せる優しい笑顔でそう言った。



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