遺言ノ花嫁

「職業無職で背中に鯉の入れ墨なんて特徴、どう考えてもカタギじゃねぇよ」

佐川さんの言葉が脳内で再生される。
カタギじゃない…

花垣 薫さんが探して欲しい人
今まさにこの人が口にした飯田 直人という
あの写真の男性の名前だった

「あ、あの、飯田直人さんはお知り合いですか?」
「え?ああ、あれ俺の組員だから知り合いだね」

顔色ひとつ変えずに、にこにこしながら
私の頬を次はむにむにと摘み始めた

「くっ、組員ひゃん…」
「そーそー。でね、あいつ組の金持ち逃げしてんの」

花垣さんが何処まで分かってて
うちに依頼しに来たのか分からないけれど
そりゃ警察には行けないわけかと
妙に納得している自分が居る

「許せないでしょ?探してんだけど、見つかんなくてね〜。小春ちゃん達早く見つけてくんない?」

そう言って私の両顎をガッと掴むと
「見つけたらあいつ、キツいお仕置必要だからさぁ」と
耳元で同一人物とは思えないくらい
低くかすれた声で呟いた。

全身にゾワッと鳥肌が立つ
自然と涙がせり上がってくるほど怖くて
泣くまいと鼻をすすれば
頭上から聞こえた舌打ちに
ゆっくりと掴まれた顎から手が離れた。

「あれ葉月くんもサボり?」
「お前と一緒にするな、死ね」
「相変わらず連れないね〜」

随分辛辣なフレーズが飛び出した気がしたけど
この人のおかげで救われた
あのままじゃ私20年くらいは寿命が縮まってた。

色々なことを整理しようにも
次から次へと事情が変わって
いい加減疲れてきた…

この人のおかげで和室の空気が一気に
和やかになったように感じる
尋常じゃないほど痺れ出した足を
このタイミングしかないとゆっくり崩した。

どう考えてもこの怖い人とは真逆のタイプだろう

彫りの深い目元と高い鼻に薄い唇
いやあなたどう考えてもおモテになられますよね、の
典型的なイケメンで

私と目が合うとチッと小さく舌打ちして睨まれた
……なんで?
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