財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
「香月。俺は支社へ挨拶に寄っただけで、もうそろそろこっちを出る。明日、待ってるからな。逃げるなよ」

 すごい目で見てる。信用されてない。確かに昨日も逃げようかと少し思ったりした。

「……わかりました。私の席を作っておいて下さい。ご迷惑おかけしますが、どうぞよろしくお願いします」

「ああ、任せておけ」

 いたずらっぽい目でこちらを見た。すると、ノックの音がして支社長が顔を見せた。

「崇さん、少しいいでしょうか?」

「じゃあ、私はこれで失礼します」

「あ、ちょっと待って香月さん。あの、彼女は本当に……もう明日には本部へ行くんですか?」

 崇さんは支社長にうなずいた。

「……そんな、あの、急すぎるんじゃないですかね。送別会もできませんよ」

「送別会?本部はここから遠いわけじゃあるまいし、約束すればこれからでも出来るだろう」

「……まあ、そうかもしれませんけど……」

「支社長。香月をすぐに連れて行くことは俺の仕事に直結する問題だ。榊原財閥のためにも、ここは折れてくれないか?」

 支社長の言う送別会はただの口実なのだ。
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