ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
期待して損したとばかりに、再び扇をバッサバサ。
大和は熟れすぎたトマトのように真っ赤になった。
確かに栗毛の天然パーマに碧眼だけれど、大和は歴とした日本生まれの日本育ちだ。
日本文学者の父親はMüller改め三浦と帰化し、息子に〝大和〞と名付けるほどの日本好き。
家では日本語オンリー、生活は畳に納豆ご飯、味噌汁。ドイツどころか、飛行機にすら乗ったことがない。
中身はそこいらの若者より〝日本人〞なのに、瞳が青いと言うだけでまわりが勝手に勘違いする。
子どもの頃はキッズモデルとしてちやほやされたこともあった。
けれど、身長は母親のDNAを受け継いで中学生から伸び悩み。
頭の方はといえば、まったく両親の遺伝子を受けず、〈頭のネジが一本足りないルックスばかりの残念なハーフ〉と、元カノに陰で笑われていたのも知っている。
そんなだから就活にもことごとく失敗し、ようやくこのホテルのベルボーイとして採用してもらえたのだ。
それも、父が前社長の教え子だったからという、ゴリゴリのコネ入社。
車好きというだけで、あがり症で機転は利かないし、ベルアテンダントにはまったく向いていないと自分でも思う。
いまだにフロントの菜々緒に叱られてばかりだ。
それでもGMは、〈体力と忍耐力、何より〝人当たりの良い笑顔〞は天賦の才〉と励ましてくれる。
「ねぇ、一体いつまでここに立たせてるつもり?」
「も、申し訳ございません。ただいまご案内いたします」
「あ〜ああ、スタッフもこれじゃあねぇ。な〜んちゃってリゾートホテルじゃなけりゃいいけど〜」
いたぶるような笑い声に、大和は拳をグッと握りしめた。
──見てろよ。ここからがホテル・ポラリスの真骨頂なんだから。