ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
貴衣は目を輝かせて笑顔を寄せ、
「男よ」
「ええ?」
驚きの声が店内に響き、貴衣はシッと人差し指を立てた。
「昨日、アロママッサージに入られたでしょう?」
「え? じゃあ──」
お・ね・え? と、菜々緒の唇が動くのを見て、貴衣が大きくうなずく。
「それじゃあ、あのふたりって……」
「いい年した男性ふたりが、一週間も隠れ宿に滞在する関係」
ふたりは「なるほど」と頷きあい、体を拭う玲丞の肉体美へ視線を移した。
「いい男なのに、残念」
性に奔放な貴衣にも、一応タブーはあるらしい。
「でもそれなら、なんでGMに言い寄ってるのかしら?」
「どっちもいけるんじゃない?」
唇をアヒル口にした貴衣が、驚いたように目を見開いて固まるのを見て、「何ごと?」と顔を向けた菜々緒も、フリーズした。
入り口に、表情を消した多恵の姿があった。
「貴衣さん、あちらにいらっしゃる藤崎様に、お戻りの際で構いませんので、サインをいただいてください」
「あっ、は、はい」
多恵は伝票をカウンターに置くと、狼狽えるふたりには目もくれず、無言で出て行った。