ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
祭壇では、歓声と共にフラワーシャワーが行われている。ピンクやイエローの花びらが、純白の花嫁花婿を祝福していた。

「何?」

いきなりカオルに抱きつかれ、玲丞は気色悪いと上体を引いて肘で突き放そうとした。だがカオルは両腕をガッチリ巻きつけ蛸のようにくっついて離れない。

挑発的な視線の先を辿って、玲丞はギョッとした。
多恵がじっとこちらを見上げていた。

「あ~らら、怒っちゃった? 昼間っから何いちゃついてんのよ〜って。あれ? 顔を背けた」

罠を振り解いた玲丞が手摺から身を乗り出す横で、カオルは悠長に手摺に両肘をついて顎を乗せ、ニヤニヤと実況を続ける。

「考えてる、考えてる。ダメよ、多恵ちゃ〜ん、今はお仕事中よ〜。おっ、見て見て、あの澄ました顔!」

ホテルマンらしく会釈する多恵に、カオルは朱い唇を窄めて投げキッスをした。

「いいねぇ、多恵って。いつも真剣で一生懸命で。からかいがあるわぁ」

玲丞に睨まれ、カオルはネイルの具合を確かめるように親指で爪先を弄びながら、

「それで? どうするの? まさか裏切ったりしないよね?」

そっぽをむく玲丞に、

「あたしを敵に回すつもりなら、こちらも多恵ちゃんに遊んでもらうわよ?」

「よせよ」

「タイムリミットは近いぜ」

今までにない低い声がした。
と思ったら、カオルは人差し指をチッチと振って蠱惑的に微笑んだ。

「ぐずぐずしてたら、あたしも本気出しちゃうから」
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