ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?

「玲は真面目で不器用なのよ。あんまり苛めないでやって」

「そうでしょうか? 私にはとても器用な方に見えますけど」

何せ、バイセクシャルであることを隠しながら、三股もかけていたのだから。

「彼ってさ、相手から強引に迫られると、断れずに付き合っちゃうタイプなの」

「なんじゃそりゃ?」と、多恵は心の中で突っ込んだ。まったくフォローになってない。

「つまりね、彼のやさしさを、勘違いしないでほしいの。藁にもすがる気持ちはわかるけど、彼を苦しめるだけよ」

──人を腐して、面白いのか? 悦に入ってるのか?
だいたい、今も昔もこちらから交際を迫ったわけではないし、偶然再会した昔の女を追いかけ回しているのは玲丞の方で、こちとら迷惑しているのだ。

腹立ち紛れに、多恵は皮肉を込めて言った。

「ご心配なく。亡くなられた恋人を想い続けていらっしゃる方には、興味ありませんから」

突然、カオルが目を剥いた。

「玲、麻里奈のこと話したの?」

──やはり。

あの冬の日溜まりで、多恵を抱きしめて呼んだのは、恋人の名前だった。

「いいえ。余計なことを申し上げました。申し訳ございません」

「待て!」

いきなり手首を掴まれて、多恵は体を硬直させた。
その手は、男の手だった。

「な、何でしょうか?」

ジッと見つめる視線が怖い。仰け反る多恵に、カオルは低く唸るように言った。

「麻里奈は死んだって、玲がそう言ったんだね?」

「い、いえ……あの……」

「麻里奈は死んだと、あんたに言ったんだろう?」

険しい声に、多恵は声を呑んだ。カオルの目がじりじりと迫ってくる。
< 90 / 160 >

この作品をシェア

pagetop