ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
「玲は真面目で不器用なのよ。あんまり苛めないでやって」
「そうでしょうか? 私にはとても器用な方に見えますけど」
何せ、バイセクシャルであることを隠しながら、三股もかけていたのだから。
「彼ってさ、相手から強引に迫られると、断れずに付き合っちゃうタイプなの」
「なんじゃそりゃ?」と、多恵は心の中で突っ込んだ。まったくフォローになってない。
「つまりね、彼のやさしさを、勘違いしないでほしいの。藁にもすがる気持ちはわかるけど、彼を苦しめるだけよ」
──人を腐して、面白いのか? 悦に入ってるのか?
だいたい、今も昔もこちらから交際を迫ったわけではないし、偶然再会した昔の女を追いかけ回しているのは玲丞の方で、こちとら迷惑しているのだ。
腹立ち紛れに、多恵は皮肉を込めて言った。
「ご心配なく。亡くなられた恋人を想い続けていらっしゃる方には、興味ありませんから」
突然、カオルが目を剥いた。
「玲、麻里奈のこと話したの?」
──やはり。
あの冬の日溜まりで、多恵を抱きしめて呼んだのは、恋人の名前だった。
「いいえ。余計なことを申し上げました。申し訳ございません」
「待て!」
いきなり手首を掴まれて、多恵は体を硬直させた。
その手は、男の手だった。
「な、何でしょうか?」
ジッと見つめる視線が怖い。仰け反る多恵に、カオルは低く唸るように言った。
「麻里奈は死んだって、玲がそう言ったんだね?」
「い、いえ……あの……」
「麻里奈は死んだと、あんたに言ったんだろう?」
険しい声に、多恵は声を呑んだ。カオルの目がじりじりと迫ってくる。