私の彼は、一途な熱血消防士

夏祭り 8

 夏祭り終了の時間も残すところ十分となったところで、ようやくもう一人の当番である亜沙子(あさこ)ちゃん親子が顔を出す。

「ごめんなさい。私、当番だったのすっかり忘れてて……」

 亜沙子ちゃんは、さっきまで輪投げをしていたのか、その手には輪投げの景品が握られており、まだ遊びたそうな表情だ。

 亜沙子ちゃんのお母さんは謝罪の言葉を口にしたけれど、亜沙子ちゃんは、何でママが謝るの? と納得いかないようだ。

 当番の二人は、この親子に今さら何を言っても無駄だと諦めているようで、謝罪の言葉を聞いてもスルーしている。

 実は亜沙子ちゃん親子は毎回このような当番ごとを、さっきみたいに『忘れていた』で済ませることがあると、里佳先生や昨年度担任だった沙織先生から事前に話を聞いており、正直やっぱりかという思いだった。恐らくみんなもそう思っている。

 これはお母さんに何を言っても無駄な気がするけれど、亜沙子ちゃんに関しては、集団生活をする中で当番制度は大切なことだ。

 私は亜沙子ちゃんの目線に合わせて腰を屈めると、できるだけ穏やかな口調で話を始めた。
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