私の彼は、一途な熱血消防士
 気が付けば、炎は天井にまで届いている。この幼稚園は昭和の時代の建築物で、木造だ。十二月という季節柄、空気も乾燥しており、思っていたよりも火の手が回るのは速い。

 消火器を一本使い切ってみたものの、やはり炎は消えない。たしか職員室の前にも消火器が設置されてたことを思い出した私は、使い切った消火器を放り投げ、出入り口へと向かおうとしたその瞬間、背中に鋭い痛みが走った。

 あまりの痛さに、私はその場に倒れ込んだ。煙を大量に吸い込んだせいだろうか、呼吸も苦しくなってくる。

 そうしているうちに、炎は私の足元にまで広がってきた。

 もしかして、私、このまま死んじゃうのかな……

 薄れゆく意識の中で、周囲の騒がしい声が耳に届くのに、だれが何を話しているかはわからない。

「……み、……な……、愛美!」

 私を呼ぶ声が聞こえる。ああ、この声は誠司さんだ。誠司さんが来てくれたんだ……

 私は誠司さんの声に安心して身体から力が抜ける。

 ぼんやりとする視界に、誠司さんの姿が見えた。そういえば、救急救命士の姿を見るのって初めてかも。

「愛美!! 俺がわかるか?」

 私はその声に応えようと、口角を上げる。それが今の私にとっての精一杯だった。

「すぐに病院に搬送するからな、……愛美? 愛美っ!!」

 その声を聞いたのを最後に、私の記憶は途切れた。
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