氷の王子と、婚約からはじめる世界一熱い恋【マンガシナリオ】

第3話 同棲、前途多難です

●同棲用マンション、早朝

きよか(千隼くんとの同棲生活がはじまってから、早くも一週間が経ちました)
(そしてなぜか現在)
(こんな状態なんですけど!?)

ピピピピピ、とアラーム音。
ベッドの上で寝ている千隼(熟睡)と、千隼に抱きしめられた状態で同じベッドに寝ているきよか(目がギンギンに冴えている)。
昨夜、練習を終えて帰ってきた千隼が「疲れた……」と玄関で寝そうになったので、無理やりベッドまで連れていき寝かせようとした結果、がっちり抱きしめられてしまい抜け出せなくなったことを回想する。

きよか(全っっ然寝られなかった……)
千隼「うーん……」
きよか「千隼くん起きて! 今日は学校に行くって言ってなかった!?」
千隼「……なんでいるの?」
きよか「あ、あのねえ……」
千隼「まいっか……あったかいから……」
きよか「よくなーーーい!」

きよか、ふたたび寝ようとする千隼を必死に起こす。

その後、ふたりで連れ立って登校。
ぼーっとしたままヘッドホンで音楽を聴いている千隼と、隣でそれを見つめるきよか。

きよか(驚くべきことに、あの「氷の王子」は生活力が皆無!!)

ねぼけたまま洗顔フォームで歯を磨こうとする千隼。シャワーのお湯をmaxの水勢で顔面にくらう千隼。t シャツを前後裏表逆(タグが正面に見えている状態)で着る千隼、をそれぞれ回想。

きよか(むしろ今までどうやって生きてきたのか心配になるレベル……)
(ファンの人はきっと知らないだろうなあ)

顔はこんなに完璧なのに……と千隼の横顔を見つめる。



●教室、登校後


きよか「おはよー」
夏実「あっきよか!……と宝生くんもおはよう……」

教室の戸を開けると、真っ先に夏実が反応。しかしまだ千隼への態度は緊張気味。
千隼、軽く会釈だけをして自分の席へ行ってしまう。

夏実「はあ~夫婦で一緒に登校かあ~うらやましい」
きよか「ふ、夫婦じゃないし」
夏実「似たようなもんでしょ~、このこのっ」

夏実にからかわれていると、女子が数人近づいてくる。

女子a「ねえきよかちゃん」
女子b「宝生くんにあのこと聞いてくれた……?」
きよか「あっ、ごめん忘れてた……! 今聞いてみようか」

きよか、夏実と女子たちを伴って千隼の席へ。

きよか「ねえ千隼くん。ちょっと相談というか……聞きたいことがあるんだけど」
千隼「?」

千隼、席に座ったままヘッドホンを外す。
きよかにほら、と促され、女子たちが話しかける。

女子a「あのね、来月の学園祭のことなんだけど」
千隼「学園祭?」
女子b「うん。うちは毎年この時期なんだけど、みんなでクラスの出し物の準備してて……」
女子a「ほ、宝生くんも何か係を受け持ってくれないかな!?」
千隼「俺が?」
夏実「転校してきて早々申し訳ないんだけど、クラス全員でやる決まりなんだ」
千隼「……なんの出し物やるの?」

きよかたち、一度顔を見合わせる。

きよか「ジョ、女装喫茶……デス……」

千隼が転校してくる前の話し合いで、ノリで決めてしまったことを後悔するきよかたち。
しかし千隼は相変わらず無表情。差し出された学園祭のチラシを手に取る。

千隼「悪いけど、たぶん来月はほとんど学校来られない。そろそろシーズン始まるし……」

千隼、チラシの日付(10月末)を指差す。

千隼「この日、アメリカで大会だから」
きよか「あ……」
女子a「そ、そっか。そうだよね。スケート、いそがしいよね」
女子b「宝生くんはうちらみたいな一般人と違って、学園祭なんかより大事なことがあるもんね……」

女子たちを見ようともしない千隼。すごすごと退散しようとする女子たち。
きよか、いても立ってもいられず間に入る。

きよか「待って!」
「私、内装担当だから千隼くんも同じグループにして!」

驚く一同。千隼も少し驚いた顔。

きよか「うん、そうしよ。学園祭当日は来られなくても、もしかしたら少しくらいは準備で手伝ってもらいたいことあるかもだし! 私と一緒の係なら、連絡もスムーズでしょ?」
女子a「宝生くんがいいなら……」
千隼「別にいいけど」

千隼、あまり興味がなさそうな態度だが一応了承。
女子たちがほっとする様子を見て、きよかも胸を撫で下ろした。



●昼休み、中庭


ランチタイム。
中庭のベンチで並んで座り、きよかの作ってきた弁当を広げるきよかと千隼。

きよか「じゃーん! 野菜やたんぱく質の量を計算して作った特製アスリート弁当だよ!」
千隼「……ありがと」

千隼、彩りのよい弁当の中からおかずをひと口たべる。

千隼「美味い」
きよか「ほんと? よかった~」
千隼「きよか、料理上手だよね」
きよか「そうかな。子供の頃から、よく作ってたから」

きよか、膝の上の弁当を見つめる

きよか「うち、パパもママもお医者さんでさ。小さい頃から帰りが不規則で、私がよくごはん作ってたんだ」
「今はふたりして海外で医療ボランティアしてるから、年に一回帰ってくるかどうか……。だからこうやって誰かに食べてもらえるの、うれしいな」
千隼「ふうん……」
きよか「千隼くんのお父さんとお母さんは?」
千隼「死んだ」
きよか「えっ?」
千隼「だいぶ前に、事故で揃って。中学まではじいちゃんのとこいたけど、高校からはひとり暮らし」
「家事はハウスキーパーがやってくれてたから、きよかみたいに料理できない」
きよか「そっ、そうなんだ」

きよか、気まずいことを聞いてしまったと思いあわてて話題を変える。

きよか「でもすごいね。練習とかトレーニングとか、全部自分で管理してるよね」
千隼「当たり前でしょ、それくらい」
きよか「そんなことない! 毎日……昨日も、玄関で寝ちゃうくらいへとへとになるまで練習して。私だったら、今日くらいはいいかな~とか思っちゃうもん」
(今朝も、なんのかんので登校前にランニング行ってたし)

きよか、ぼーっとした表情のままランニングウエアを着てでかけていく千隼の姿を思い出す。

千隼「親譲りなの? あんたのその性格」
きよか「えっ?」
千隼「お人好し。両親もわざわざ海外でボランティアしてるくらいだし、相当でしょ」
きよか「う~ん、どうかな……あの人たちの場合、じっとしてられないだけのような気もするけど」
千隼「きよかだって、じっとしてられなかったから首つっこんだんでしょ。……今朝」
きよか「あ……」

朝、千隼を無理やり学園祭の内装担当に加えてしまったことを思い出すきよか。

きよか「ごめん、迷惑だったよね」
千隼「別に。ただ……なんでわざわざ俺を引き込んで、面倒な役回り引き受けたの」
きよか「……学園祭、たのしいもん」
千隼「は?」
きよか「千隼くんは知らないだろうけど、うちの学園祭すごいんだから!」

興奮で前のめりになるきよか。身振り手振りを交えて語り出す。

きよか「クラスの出し物、どこもけっこう本格的でさ。私のクラスは去年、お化け屋敷だったの。みんなで衣装とか仕掛けとか考えて作るの、すっごくたのしかった!」
「だから千隼くんも……当日参加は無理でも、準備期間のワイワイした雰囲気くらいは知ってほしいなって」
千隼「……」
きよか「あ、あとね、後夜祭では花火があがるんだよ! 後夜祭の花火を見ながらキスしたカップルは永遠に一緒にいられるってジンクスがあって、だからみんな学園祭の前後はそわそわしてるの」
千隼「キス……」

千隼、不意にきよかの耳の辺りに手を伸ばす。
まるでキスをするようなポーズで向かい合い、真っ赤になるきよか。

きよか「え、え、ち、千隼くん……!?」
千隼「ごはんつぶついてる」
きよか「へっ!?」

キスしようとしたわけではなく、髪についたゴミを取ろうとしただけだった。

きよか「あ……ありがと……」
(キスの話してたからって……意識しちゃったのバレバレで恥ずかしすぎる)
千隼「――世界で一番熱い恋」

千隼、きよかの髪を耳にかけ、ささやきかける。
きよかが驚いてバッと身を引くと、こちらを優しい表情で見ている千隼。

千隼「どうやったらできるのか、まだよくわかんないけど」

千隼、「ごちそうさま」ときよかの横に弁当箱(ナプキンをきれいに包み直してある)を置きつつ立ち上がる。
ポケットに両手をつっこみ、正面を向いたまま(きよかに背中を向けた状態)で言葉をつづける。

千隼「でも、そーやってきよかが笑ったり照れたりするのを見るの、わりとたのしい」
きよか「千隼くん……」
千隼「先に教室戻ってる」

ひらりと片手を上げ歩き出す千隼と、ベンチに座ったまま見送るきよか。
千隼の口元が微笑んでいるが、きよかからは見えない。

きよか、ひとりで残っている自分のお弁当(サンドイッチ)を食べる。

きよか(また、からかわれたのかな)
(世界一熱い恋……私ばっか照れて熱くなってて恥ずかしい)
(あれ、そういえば)
(今日のお弁当、ごはんは入ってなくない……?)
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