氷の王子と、婚約からはじめる世界一熱い恋【マンガシナリオ】

第4話 新婚、いらっしゃいませ

●都会の街中、放課後

きよか(今でもまだ信じられない)

人ごみの中、じっと上方を見上げるきよか(制服、通学リュックをしょっている)。
その視線の先にあるのは屋外広告の大型ビジョン。スケートの演技をする千隼が映っている。

ナレーション「氷の王子こと宝生選手、今シーズンも順調な滑り出し! 念願の世界選手権制覇なるか」
きよか(この人と婚約して、一緒に住んでるなんて)
若い女性a「宝生千隼、結婚するってまじ? 泣くわ~」
若い女性b「まだ17でしょ? さすがにウソじゃない?」

きよか、周囲の千隼に関するゴシップを聞きつつ歩き出す。
通りを歩いていると、千隼がドアップで映る化粧品の巨大ポスターが掲示されている。
きよか(本当にどこにでもいるな千隼くん……)



●ファーストフード店


夏実+クラスメイトの男女5名がテーブル席に座り、ジュースを飲んだりポテトを食べている。
夏実、店の入り口に向かって手を振る。

夏実「こっちこっち~」
きよか「ごめん、お待たせ!」
女子a「全然へーき」
男子a「模試の手伝いだって? 優等生は大変だな~」
きよか「ちょっと答案用紙の整理を手伝っただけだよ」

ジュースの乗ったトレーを持っているきよか、そのまま夏実たちの席に合流する。

男子b「それじゃ、はじめますか」
夏実「内装係、買い出し前の打ち合わせ~」
女子b「リストはこれ」
男子a「けっこうあるよな……」

きよか、ジュースを飲みながらみんなの会話を聞いている。

夏実「問題は、買い出しの後の実際の作業よね」
男子a「ある程度一気にやっちゃいたいよな」
女子b「教室は衣装係に占領されちゃってて……」
女子a「どっか工作に使えて気兼ねしない広い場所ない?」
きよか「誰かの家とか?」

一同、いっせいにきよかを見る。

男子a「あるじゃん……すげぇ広いとウワサの家が」
男子b「さすがに悪くね? 新婚だろ……」
夏実「えっ、えっ、マジ? 推しの家の空気吸っていいとかマジ?」
女子a「宝生くんも内装係ってことになってるし、ちょうどいいかも……」
きよか「み、みんな、なんの話してるの?」
夏実「きよか!」

夏実、勢いよくきよかの両肩を掴む。興奮でギラついた顔。

夏実「使わせて! 宝生くんときよかの新居!」
きよか「ええええっ!?」



●きよか自宅、夜


きよか「……というわけなんだけど……」

ダイニングテーブルに座るきよか(パジャマ)と、向かいの席で夕飯を食べている千隼(風呂上がり)。

千隼「……いつ?」
きよか「今週末」

千隼、スマホのカレンダーを確認

千隼「渡米前最後の休養日なんだけど」
きよか「ご、ごめん!やっぱ迷惑だよね! みんなには断るから……」
千隼「別に。あんまり騒がしくしないなら、勝手にすれば」
きよか「いいの?」
千隼「……騒がしくしないなら」
きよか(……と、千隼くんは言ってくれたけど)

日付変わり、クラスメイトたちの訪問当日。

夏実含めたクラスメイト5名「おじゃましまーす!」
きよか(騒がしくなるに決まってるよね……)

玄関で、工作の道具やお土産片手にわくわくした顔のクラスメイトたち。

女子a「めっちゃ広ぉ~……!」
男子a「やべ、緊張する」
女子b「宝生グループのマンションなんでしょ?」
きよか「う、うん。なんのおもてなしもできないけど、どうぞ上がって」
夏実「何そのセリフ新妻っぽい!」

興味津々のクラスメイトたち。夏実はずっとスマホで写真を撮りまくっている。
きよか、男子bから手渡された手土産の紙袋を受け取り、みんなをリビングへ案内する。

男子b「宝生は?」
きよか「自分の部屋にいる……。イメージトレーニングしてるから、近づかないでって」
夏実「家にいる時もトレーニング……やば、尊」

一方、自分の部屋にいる千隼。ヘッドホンで音楽を聴き、パソコンのモニターを見ている。(自分の練習映像)
ドアの向こうから、夏実たちがはしゃいでいる声が聞こえてくる。

千隼「…………」

しばらく無視し続けていたが、たのしそうに盛り上がる声がいつまで経っても止まない。
ついにたまりかねて部屋を出て、リビングのドアを開ける。

千隼「あのさ。さすがにうるさいんだけど」

動きを止める一同。テーブルと床に模造紙を広げてメニューや背景のカキワリを描いたり、教室を飾るガーランドを作ったりしている途中だった。
ふざけ合って床でもみ合った状態の男子2名と、みんなにおやつを出そうと、お盆を持っているきよか。

きよか「ご、ごめん」

たのしそうな雰囲気が一転、気まずい空気になってしまい、ほんの少しの罪悪感と疎外感を感じる千隼。

千隼「……邪魔した」
きよか「待って!」

居心地が悪くなって部屋に戻ろうとした千隼を、きよかが腕を掴んで引き留める。

千隼「何」
きよか「あのね、みんながお土産におやつを差し入れしてくれて。千隼くんも食べない?……パストラルのプリン」
千隼「!」

お盆にのったプリンを見せるきよか、目を見開く千隼。実は大好物。

きよか「千隼くん、好きなんでしょ? 前、雑誌のインタビューで答えてたってなっちゃんが……」

千隼、夏実たちを見る。少し気まずそうな顔でピースする夏実と、チィース、と手を上げて挨拶する男子らクラスメイトたち。
千隼、ため息をつくとダイニングテーブルの椅子に座る。

千隼「……食べる」

その後、プリンを食べながら世間話をするクラスメイトたちと、時々答える千隼。
最初はぽつぽつ、とした会話がだんだん盛り上がり、男子たちが千隼の背を叩いたりする。
呆れつつも、その場からいなくなったりせず会話に付き合う千隼。
次第にプリンを食べ終えた女子たちがテーブルでガーランド作りの作業を再開する。

きよか「千隼くんもやってみる?」
千隼「…………」

差し出された折り紙とハサミを受け取る千隼。作業の輪に加わり、ガーランドを作る。
模造紙におしながきのメニュー名を書こうとしてヘタクソな字を書く男子たちに代わり、達筆を披露。(毛筆三段)
みんなに褒められて少し気分がいい。
一方のきよかは、インクの出なくなったマジックペンを新しいものと取り換えてあげたり、「ここどうしたらいいと思う?」という相談にのったり、さりげなく指示したりサポートする役目。
友人たちの輪の中心で笑顔を見せるきよかを、少しまぶしいような、寂しいような目で見つめる千隼。

そして、みんなが帰宅する時間になる。
玄関で帰りじたくをするクラスメイトたち。

夏実「おかげさまでどうにかひと段落したね~!」
きよか「あとは放課後に少しずつやれば間に合いそうだね」
女子b「長居しちゃってごめん」
きよか「ううん、大丈夫」
男子a「でもさ~思ったより新婚感なかったな、三澄と宝生」
きよか「えっ」
女子a「わかる~。もっとべたべたイチャイチャしてるのかと思った」
きよか「そ、そんなこと……しないよ」
男子b「早くも倦怠期ってやつだったりー?」

男子b、笑ってきよかの肩を叩く。するとその手を、いつの間にかきよかの後ろに立っていた千隼が払いのける。
千隼、きよかを引っ張って抱きしめて腕の中に閉じ込め、みんなから顔が見えないようにしてしまう。

千隼「あんまり気安く触らないで。……俺のだから」

ひゅ~……と口笛を吹く男子たち。赤面したりきゃーっと小さく悲鳴を上げる女子たち。無言でスマホで写真を撮りまくる夏実。

きよか「ちちちちち千隼くん、みんな見てるから」

きよか、千隼の胸元でもがもがと暴れるが、強く押さえつけられていて腕の中から抜け出せない。

男子b「あ~悪かった悪かった。邪魔者は退散します!」
夏実「いや~最後によきもの見せてもらったわ~。じゃ、あとはお若いかた同士で!」
女子b「また学校でね」

クラスメイトたち、そそくさと退散。バタンと玄関扉が閉まり、きよかと千隼のふたりだけになる。
千隼、ハァと大きな安堵の息を吐いてきよかを解放する。

きよか「ち、千隼くん。そういう『アピール』は、みんながいる時に無理にしなくていいから……」
千隼「?」
きよか「だから、千隼くんがスケートを続けるために私と結婚しようとしてるとか、そういうこと誰にも言ったりしないから、わざと婚約者っぽいふりなんてしなくいいよ!」
千隼「……」

ぽかんとする千隼。少ししてうつむく。

千隼「……違う」
きよか「え?」
千隼「アピールとかじゃなくて……」

千隼、真っ赤になって口元を押さえる。

千隼「……本当に誰にも触られたくなかった」
きよか「……!」

互いに真っ赤になってうつむく。
少しの無言状態ののち、きよかは気まずいのをごまかそうとわざとまくし立てる。

きよか「え、えと、今日はせっかくのお休みをうるさくしちゃってごめんね。でもこの家に友達が来てくれるのはじめてだから、たのしかった!」
千隼「……ん」

千隼、玄関にかけてあるジャケットを羽織り、スニーカーを履く。

千隼「少し走ってくる」
きよか「う、うん。じゃあ夕飯の準備しておくね!」
千隼「今日みたいな騒がしいのさ、……たまになら嫌じゃない」

そのまま家を出ていく千隼。玄関扉が閉まるのを見送るきよか。

きよか(全然知らない人との婚約なんて、ぜったいいやだと思ってた)
(でも、今は千隼くんのこと、もっと知りたいって思ってる)

一方、マンション共用廊下からエレベータに乗り込む千隼。
ドアが閉まると、その場にうずくまる。耳まで真っ赤な顔。

千隼「何これ。……あつ」
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