実家に冷遇されたポンコツ地味令嬢ですが、魔術学園で活躍していたら隣国王子の溺愛が始まりました
 商人の娘として人前に出ることはあったから、平民としては無難な礼儀作法は身についているとは、思う。
 けれど貴族特有の慣習に基づいたマナーや、空気の読み方のコツはさっぱりわからない。
 それでいて貴族と婚約させようとしているんだから、父も不思議な人なんだけどね。

「魔術学園に入り、今後魔術職を志望するのなら貴族の礼儀作法を身につけるのは必須教養よ。何せ、まだまだ魔術職は『青薔薇の職』と呼ばれているのだから」

 彼女は私を振り返る。そしてまた、ビシッと私を指差す。

「だから尚更、私の隣室に入ったほうがよろしくてよ、フェリシア・ヴィルデイジー。気を抜けない場で寝起きし、徹底的に体に礼儀作法とマナー、気位の高い貴族令嬢たちの生態を学び、上手に転がす方法を覚えなさい。悔しいでしょうけれど、学園中より外はもっと新興貴族の魔術職には厳しくってよ。そんな中でも、あなたが生きていくための術を身につけなさい、私の傍で」
「……」
「どう? 怖気付いたかしら?」
「いや、……なんで、そこまでしてくれるんですか?」
「気まぐれですわ」
「気まぐれ!?」

 彼女はふん、と髪をかきあげる。
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