実家に冷遇されたポンコツ地味令嬢ですが、魔術学園で活躍していたら隣国王子の溺愛が始まりました
 レシュノルティア王国は今、将軍によるクーデターで国が荒れている。
 腐敗した貴族たちに腹を立てた民衆によって、将軍を新たなる王にして新王朝を打ち立てるべきだと言われているのだ。
 父は彼らと交渉を続け、母は妹たちを連れて亡命し、外国の将校の伝を使って修道院に匿われている。王太子である肝心の兄はーークーデター直後から行方知れずだ。

 第二王子(カイ)は表向きクーデターで死んだことになっている。

 父により、カイは事態が落ち着くまで外国に潜伏し、国外情報を手に入れて国に戻るための力を温存するよう命じられていた。王太子の代わりのスペアとして、なんとしても生き延びるのが己の役目だ。

 しかし第二王子がそのままの姿でうろついていれば、他国とはいえ、どこで露見するかわからない。
 カイは首に魔道具のチョーカーをつけ、水・風以外の魔力全てを封印することで幻惑魔法を起こしている。自分が女性に見える幻覚だ。
 声も容姿も、幻覚を浴びている人間は全てカイのことを女性だと思っている。

 しかしこの魔道具にも弱点はある。
 カイが誰か他人と心を通じ合わせ、深く親しく特別な関係になりたいと思ってしまったらーーその効き目はその相手には弱まってしまうのだ。

 潜入当初、カイは平気だと確信していた。
 自分には果たすべき責務がある。浮ついた学園生活をしている場合ではない、と。
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