使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
「本当にお前は使えない奴だな」

 今日もお父様の執務室でお小言を聞く。目を(つむ)り、後に続く「私の娘なのか疑わしいほどに」という言葉をやり過ごした。

 だって仕方がないじゃない。私はお父様の娘じゃないんだから。

 そう、私は乙女ゲーム『今宵の月は美しい?』の悪役令嬢、アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢に転生した。
 美しい銀髪を(なび)かせ、青い瞳は自信満々に。その微笑む姿がとても印象的な悪役令嬢。それが本来のアベリアの姿だった。
 だから、お父様がそう思うのも無理はない。

 とはいえ、私はもうお父様の娘であって、娘じゃない、などと言えるわけもなく。今日もこうしてお小言を聞くことしか出来なかった。

 本当のアベリアは悪役令嬢として、お父様の期待通り、王太子との婚約をもぎ取っているのだから……。

「あんな男爵令嬢ごときに遅れを取るなど……分かっているのか! この私の屈辱感を!」
「……はい」

 一応返事はするものの、内心では呆れていた。

 『今宵の月は美しい?』の結末にいちゃもんをつけられても……なのだからである。これは私ではなく、乙女ゲームの製作者側に喧嘩を売っているのと同じこと。

 そもそもこの乙女ゲームは、ヒロインであるクリオ・シュトロブル男爵令嬢が、王太子を始めとする攻略対象者たちと恋愛をするゲーム。
 クリオが筋書き通り、王太子と婚約するのは当たり前のことなのだ。

 ただ、その前に私が悪役令嬢として立ち塞がっていないだけで……。

 そう、本来なら、クリオが登場する前に、するはずだった王太子との婚約ができていなかったのだ。

「お前がエリクセン殿下に、怯えるという失態を犯さなければ今頃は……!」
「申し訳ありません」

 だって仕方がないじゃない。エリクセン・リンデン殿下に初めてお会いしたのは、幼い頃。まだ王太子ではなかった時の話だ。

 転生したばかりの私は、とにかく『今宵の月は美しい?』の世界に慣れるのと、ストーリーを思い出すのに忙しかった。
 元々、器用な人間じゃないから、やることなすことあたふたあたふた。

 たとえば、教えられたことは、必ず一度は失敗すること。それも直後なのだから、冷たい視線が返って来るのは必須だった。

『こんなこともできないのですか?』

 使えませんのね。
 余韻の沈黙が、そう言っているように感じるほどに。

 だから、エリクセン殿下に初めてお会いした時は……もう酷かった。
 この方が将来、私を不幸のどん底に追いやるのだわ、と思ったら、怖くて怖くて。
 どんなにお優しい言葉をかけられても、私はそれにお応えすることはできなかった。

 優しいエリクセン殿下は、それでも公爵令嬢であり、婚約者候補筆頭であった私に歩み寄り続けてくれた。
 王城に招いてくださったり、我がハイドフェルド公爵邸に来てくださったり。公務への同行を求められ、実質、婚約者のようにも扱ってくださった。

 そう、クリオが現れるまでは。

「始めは、使えないお前でも構わないと言ってくださったのだぞ。それを有り難がるどころかお前は、逃げるなどと……何を考えている、アベリア」
「返す言葉もありません」

 私はさらに俯いた。

 クリオが夜会に登場した日。
 彼女は攻略対象者の一人である、魔術師、リベラ・リダカン伯爵のエスコートを受けていた。
 つまり、クリオはリダカン伯爵のイベント、竜退治を終えていたのだ。けれどこれはイベントであって、攻略後ではない。

 クリオが社交界デビューをするためには、リダカン伯爵の協力が必須なのだ。そう、社交界にはエリクセン殿下の他に、攻略対象者がいる。殿下の側近と私の兄が。

 その誰かを狙ってやってきたに違いない。
 だから私は逃げたのだ。クリオが、エリクセン殿下に近づく前に……。

 すでに二人の障害として立ち塞がる悪役令嬢は、悪役令嬢としての機能を果たしていなかったのも相まって、とんとん拍子に話は進んでいった。
 まるで待っていたかのように、二人は婚約することに。

 幸いなことに、婚約者ですらなかった私は、断罪されることも、ざまぁされることもなく、今に至る。
 お陰で自宅謹慎という名の、お父様のお小言を毎日聞く、という罰を受けているのだ。

「そんなお前がいつまでもここにいると、私の心労が増える一方なんでな。アベリア。お前を修道院へ行かせることにした」
「え?」

 断罪もざまぁもされていないのに、追放ED? 何で? それも、悪役令嬢としての義務も果たしていないのに……。
 いや、果たしていないから、この世界『今宵の月は美しい?』が私に罰を与えようとしている……の?

「お前の荷物はメイドに用意させた。明日には出て行くように。いいな」
「そ、そんな突然……!」
「私の心労だと言っただろう。それから、醜聞を避けるためだ」
「でしたら、領地へ静養させてください。何故、修道院なのですか?」

 いくら私が使えないからと言っても、修道院はあり得ない。しかもそんな理由なら、領地へ行くのが妥当では?

「もう決まったことだ! さっさと自室に戻って明日に備えろ」
「……はい」

 そうだった。私が反論したところで覆せる案件ではない。お父様はこの国で一つしかない公爵家の当主、ハイドフェルド公爵なのだから。
 お父様は椅子から立ち上がり、私に背を向ける。

 出て行け。言葉よりも、無言の圧力の方が悲しくて、怖かった。

 転生したのが幼い頃でなければ。そう、婚約中だったら良かったのに。そうすれば、お父様の期待に少しでも応えられたのかもしれない。
 ううん。中身が使えない私なのだから、結果は同じだったと思う。

 私は胸が締め付けられる思いで、お父様の執務室を出て行った。


 ***


 翌日の早朝。
 出て行くのなら早い方がいい。昨夜、別れの挨拶に来たと思っていた、攻略対象者の一人でもある兄のドナートに、言われた言葉。
 少しも惜しんでくれない姿に、涙が出そうになった。

「アベリア様」

 玄関から馬車へ向かおうとしたら、声をかけられた。不安そうな顔で近づいて来るピンク色の髪の女性。

「クリオ嬢。……この度はご婚約、おめでとうございます」
「ありがとうございます。その、ドナート様からアベリア様が今日、立たれると聞いて、私……!」
「すまない。俺の配慮が足りなかったようだ」

 クリオの近くにはエリクセン殿下が寄り添っている。金髪碧眼という、まさに物語に出てくるような王子様だ。可愛らしいクリオの肩にそっと手が添えられている。

 私はそれを視界に入れないように、首を横に振った。

「いいえ。殿下のせいでも、クリオ嬢のせいでもありませんわ。ただ父に堪え性がなかったというだけで」

 そう、別にエリクセン殿下と私は婚約していたわけではない。クリオに寝取られたわけでもない。
 ただ私が『使えない』人間だったために起こった出来事だった。
 未だに何故? という思いは拭えないけれど……。

 目を逸らしていると、クリオが近づいて来る気配がした。私たちは乙女ゲームのヒロインと悪役令嬢。
 思わず体が強張った。

「向こうに行ったら、絶対に幸せになれますから、だから……!」

 何を言っているの? と思っていると、突然、一通の手紙を差し出された。それも、好きな人にラブレターを指し出すような格好で。

 思わずエリクセン殿下を見てしまう。すると、受け取ってやってくれ、とでもいうように苦笑いされた。
 私は戸惑いつつも受け取り、中を開けようとした。が、クリオの手に遮られてしまう。

「あっ、ダメです! この手紙は、その全てが終えた時に読んでもらいたいんです」
「全て?」
「はい。ですから、道中読むことも、到着してすぐに読むこともしないでもらえませんか?」

 意味は分からないが、クリオの言うことだ。この世界『今宵の月は美しい?』のヒロインの意思を無視することは、危険なことのように思えて、私はそっと鞄の中にしまった。

「分かったわ。どの道、向こうでの生活に慣れることにいっぱいいっぱいになりそうだから、逆に忘れてしまったらごめんなさいね」

 私の失敗談あるあるだった。一つのことに集中すると、他が疎かになってしまう。最悪、忘れることも。

「いいえ。むしろ、その方がいいのかもしれません。アベリア様にとっても」

 手を握られ、「幸せになってください」とまで言われて、私はさらに戸惑った。

 けれど、更なる戸惑いが、この後待ち受けていたとは夢にも思わなかった。


 ***


「ようこそ、いらっしゃいました」

 長閑な田園風景の中に佇む、修道院。まるで陸の孤島のように、人里すら離れた場所に、その建物はあった。

 確かにここなら、人目を避けることができる。口さがない者たちも寄って来ないだろう。
 道中、不安なことだらけだっただけに、着いた瞬間、安堵した。

 が、それも束の間だった。

「え? 何故、貴方様がここに?」

 思わず一歩、後退る。何故なら、目の前にいるのが不自然な人物が、そこに立っていたからだ。

 修道長に建物の中を一通り案内された後、「着替えなくてもいいので、まずこの修道院の周りや中を、散策してみてください」と言われた。
 暗に早く慣れるように、と言っているのだろう。

 前世の知識でも、修道院の一日は忙しいって聞くし。ここでも「使えない」って言われないためにも頑張らないとね!

 そう意気込みながら、まず礼拝堂に足を向けた。何故なら、お祈りがしたかったからだ。
 この気持ちをどうか、()んでくださいますように。修道院での生活がいいものでありますように、と。

 そしたら、牧師姿のエリクセン殿下が礼拝堂にいたのだ。

「朝、ハイドフェルド邸で見送ってくださったのに」

 どうしてここに居るんですか? クリオはどうしたんですか?

 一気に込み上げてくる疑問を消化できなかったのか、それらが口から出ることはなかった。
 代わりにエリクセン殿下は、いつものように温かい目で私に微笑む。

「それは俺であって俺じゃないんだ」
「どういうこと……ですか?」
「ちょっと長話になるから、こっちに来て話そうか」

 エリクセン殿下はそういうと、私の手を取り、腰に触れる。そう、彼がクリオと婚約する前にしてくれていたエスコートだ。
 あまりにもごく自然にされたので、私は椅子に座るまでそのことに気がつかなかった。頭が作動していなかったのもあるのだろう。
 それでも、近い距離に座られれば、嫌でも気づく。

「あの、ち、近くないですか? それにエスコートだって、エリクセン殿下にはクリオ嬢という婚約者がいるのに、このようなことをするのは、よくないと思います」
「近くもないし、エスコートの方法も間違っていない。俺がここに居る理由も含めて、その誤解を解きたいんだ」
「ご、かい?」
「あぁ。そもそもクリオ嬢と婚約したのは俺じゃない」

 私は驚きのあまり、目をパチパチさせた。それがおかしかったのか、クククッとエリクセン殿下が笑う。

「すまない。しばらく会っていなかったから、もう俺の知るアベリアではなくなっている。そう思っていたから安心したんだ」
「そんなにコロコロ変わるほど、私は器用な人間ではありません」

 思わず拗ねて言うと、さらにおかしそうに笑う。けれどこれは、別にバカにして笑っているわけではない。
 幼い頃から知っているだけに、それだけは分かるのだ。

「うん。そこがアベリアの良いところさ。どんなに成長しても、どんな肩書を手にしても、アベリアだけは決して変わらなかった。心を開いてくれないのは今でも寂しいけど」
「それは……その……」

 本当のことを言えたら、どんなにいいか分からない。けれど、この優しい眼差しが冷たいものに変わるのが怖かった。
 拒絶されるのも。だから、婚約するのが怖かったのだ。

 エリクセン殿下に捨てられたくなかったから。

「全部聞いたよ、クリオ嬢から」
「え?」
「ここはゲームの世界なんだってね。そこでの俺は、クリオ嬢と婚約をするために、アベリアに婚約破棄を言い渡して、この修道院に追放する」

 そう。それがエリクセンルートのED。だからこそ、お父様が修道院へ行けと言ったのが理解できなかった。
 エリクセン殿下と婚約だってしていないのに、何故、乙女ゲーム通りにストーリーが進んでしまったのかと思ったからだ。

「ク、クリオ嬢に聞いたって、え? 何で彼女が知って……まさかっ!」
「やっぱりね。クリオ嬢の言った通りだ。アベリア。君も転生者ってものなんだね」
「クリオ嬢も?」

 感情が追いつかないのか、驚いた顔をしているが、私の手は震えていた。その手をエリクセン殿下が取る。
 まるで、落ち着けとでもいうように、両手で包み込んでくれた。

「あぁ。アベリアが、何だっけ凄く腹の立つ言い方をされたんだよね。確か、悪役令嬢だったかな。思わずクリオ嬢に剣を向けちゃったよ」
「ヒ、ヒロインになんてことを!?」

 攻略対象者がまさか、そんなっ!

「だって、俺の可愛いアベリアにそう言うんだよ。失礼じゃないか」
「可愛い? 俺のって?」
「もしかして、ずっと気づいていなかったの? まぁ、ずっと俺の婚約者候補筆頭だったからな。でも、クリオ嬢との婚約にショックを受けてくれていたから、脈ありだと思っていたんだけど……」
「え?」

 また驚くと、エリクセン殿下はいたずらっ子のような顔をした。

「アベリアを(ぎょ)しやすいと思っている連中から守るために、候補から外さないようにしていたんだ。本当は候補じゃなくて、婚約者にしたかったんだけど、アベリアはその話をすると、顔を青ざめるから」

 あっ、と私は思い出した。そうだ。幼い頃、エリクセン殿下はこんな私のどこを気に入ったのか、真っ直ぐ好意をぶつけてきた。
 私は悪役令嬢アベリアの未来を知っているだけに、拒否をするどころか怯えて何もできなかったのだ。

「その理由をさ。不本意ながら、クリオ嬢が教えてくれたんだ。アベリアは転生者で、俺に断罪されることに怯えているんだって。実に心外だったよ」
「……申し訳ありません」
「いいよ、謝罪なんて。俺にはすぐに頭を下げないで、って言ったよね」
「はい」

 使えないと言われ続けていた私は、いつの間にか謝り癖がついていた。だから、ご自分には謝るな、と約束させられたのだ。

「それでどう? まだ俺のこと、怖い? もうアベリアを断罪なんてしないし、追放もしない。その先に一緒に来ているんだから」
「そう、それです! どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「……つまり、それを先に言わないと、俺の気持ちには答えないつもりか」

 思わず「す……」と言いかけた言葉をのみ込んだ。私は目を閉じて、頷くように頭を前に倒す。

「分かったよ。実は俺には双子の弟がいるんだ」
「え? あっ! 隠しキャラ!」

 何で忘れていたんだろう。エリクセン殿下には、生き別れの弟がいるのだ。双子は不吉だという理由で市井に預けられた弟が。

「それじゃ、朝、ハイドフェルド邸で見たのは、エリクセン殿下の――……」
「弟のコルラードだよ。クリオ嬢は俺ではなく、コルラードと結婚したい。だけど、貴族としての地位は捨てたくない、と言ってきた」
「コルラード……様は?」
「ずっと俺を恨んでいたようだからね。勿論、王太子の地位を欲していたさ」

 乙女ゲーム『今宵の月は美しい?』でもそうだった。コルラードルートは最後、王太子となり……エリクセン殿下は……失脚に追いやられる。
 エリクセンルートの追加ストーリーとして用意された隠しキャラだったから、すでにアベリアは断罪された後のこと。

 つまり、コルラードルートだけど、少し違う……? いや、私が知らないだけなのかも。

「あの、エリクセン殿下は失脚させられたのですか?」
「混乱しているのは分かるが、アベリア。ハイドフェルド邸の前で会った時、コルラードは本名を明かしたか? 俺の名前でアベリアに向き合っていたはずだけど?」
「そ、そうでした。すみ……いえ、名乗ってはいませんでしたが、私が殿下と呼んでも否定しませんでした」

 私が謝るのを咄嗟にやめたからか、エリクセン殿下の手が伸びる。頭に触れると、まるで幼い頃に戻ったかのように、撫でられた。

「クリオ嬢は、アベリアが同じ転生者だと確信して、こういう道を提示してくれたんだ。きっとアベリアは、王太子妃には向かない。ましてや王妃など。それは俺も薄々思っていたから否定はできなかった。すまない」
「いえ、転生前は平民でしたし。この通り引っ込み思案と言いますか、使えない人間なので……」
「っ! 俺はそう思っていない!」

 ビクッと体が跳ねた。と同時に、エリクセン殿下の手も止まる。

「悪い。だが、俺は一度たりともそう思ったことはない。それだけは覚えておいてくれ」
「はい」
「俺は失脚しても構わない。が、アベリアが不幸になることも、手放すことも俺にはできなかった。だから、あの二人の要求を呑んだんだ」
「つまり、コルラード様と入れ替わったということですか?」

 それ以外、辻褄が合わない。

「そうだ。筋書きとしては、俺とこのまま駆け落ちをして、ここから離れた村でひっそりと暮らすんだ。二人で。嫌か?」
「殿下はよろしいんですか? 私は先ほども言った通り、平民でしたから構いませんが。それに、殿下をお支えできるのか、正直自信がありません」

 すると、止まっていた手が再び動き出した。しかも、今度はわしゃわしゃと撫でる。

「大丈夫だ。少しずつ、コルラードと入れ替わって、市井には慣れた。仕事も少しだがしたしな。アベリアを養うくらいはできると思っている。と言い切りたいが、クリオ嬢を社交界に連れてきたリダカン伯爵を覚えているか? 魔術師の」
「はい。彼も攻略対象者の一人なので」
「しばらくの間は、リダカン伯爵が援助してくれると言っていた。彼は元々、二人の支援者だったみたいでな。今度はこちらの支援をしてくれるそうだ」

 まぁ、と驚いていると、エリクセン殿下の手が下がり、私の頬を撫でる。

「アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢。愛している。もう王太子ではないが、俺と結婚してくれるか?」
「っ! 勿論です」

 途端、抱き締められ、そのまま押し倒された。

 持っていた鞄は床に落ち、その勢いで中身が飛び出る。そう、クリオから貰った手紙も。

 それを私が読んだのは、エリクセン殿下の愛を受け止めた後だった。

 誰かに祝福されるわけでもない、誓いの口づけは、それよりも深く長かった。けれどこれから駆け落ちをするのだから、聖母様も許してくれるだろう。
 流石にそれ以上は、エリクセン殿下も自重してくれたけど。


 ◇◆◇


 アベリア・ハイドフェルド様

 このお手紙をいつ頃読まれているでしょうか。
 エリクセン殿下から全てを聞いた後だといいのですが……。

 そう、私は転生者です。恐らく、アベリア様も同じだと思っているのですが、当たっていますか?
 当たっていたら、いえ、当たっていなくても、謝罪させてください。

 私はアベリア様を陥れたいとは思っていません。むしろ、仲良くなりたかったんです。

 夜会で何度か、助けてくれたのはアベリア様ですよね。

 閉じ込められた時、部屋の鍵を開けて叩いてくれたり、ズタズタにされたドレスの横に綺麗なドレスを代わりにと置いてくれたりしてくれたのは、アベリア様だと、エリクセン殿下からお聞きしました。
 他にも色々。

 本当に、エリクセン殿下から愛されていらっしゃるのがよく分かります。
 だから思ったんです。アベリア様も転生者なのではないか、と。本来のアベリア様とは違った動きをされていましたから。

 だから今回、このような形を取らせていただきました。誰も不幸にならない方法。
 アベリア様も乙女ゲーム『今宵の月は美しい?』をプレイされていたのならご存知の通り、私はコルラードルートを進めていました。

 そのEDはアベリア様を始め、エリクセン殿下も不幸になります。けれど、アベリア様の場合はエリクセン殿下から婚約破棄を言い渡されての話です。

 その前提がない以上、どうにかできるのではないか、と私を始めコルラードとエリクセン殿下を交えて話し合いました。
 誰も不幸にならない方法は、どれか、と。

 それが、この結果です。
 お怒りになられたでしょうか。それともお許しくださいますか?

 できることなら、同じ転生者として、私はアベリア様と仲良くなりたいです。転生する前のお話や『今宵の月は美しい?』のお話などしたい。

 落ち着かれましたら、リダカン伯爵様経由でお手紙をくださると嬉しいです。

 クリオ・シュトロブル


 ◇◆◇
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