シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「ごめんね、お母さん……」

 慧悟さんに会わなければ、子供を産んでも許されると思った。
 けれど、そんな私のわがままは前埜家を幾美家から追放させてしまった。

「――私のせいで、お母さんの仕事まで奪っちゃった。前埜家はずっと、幾美家の使用人としてやってきたのに……、私がこんなになってしまったせいで」

 涙が溢れる。
 気丈に振舞ってくれる母に申し訳ない。
 私が泣いていい立場じゃないのに、母は目の前に腰かけてそっと寄り添ってくれる。

「これ」

 母は不意に、私の前に茶封筒を置いた。

「幾美家から、希幸に。出産費用にして欲しいって、預かってきたの」

 はっと母を見上げた。
 優しく微笑んでいる。

「幾美家は、私のことを恨んでるんじゃ――」

「奥様もああ言ってはいたけれど、希幸のこと心配しているのよ」

「え……?」

 母の言葉は、私の胸に疑問を残す。
 奥様が、私を――?

「お母さんはね、希幸が後悔していないなら、それでいいの。愛があるなら、それでいい」

「お母さん……」

 そっとお腹を撫でると、それに気づいた母は目を細めた。

「お母さんの話は後々ね。ほら、」

 母はすくっと立ち上がる。

「とにかく、今はめそめそしてないで、まずは美味しいものでも食べましょう!」

 母はスマホで、近所のスーパーを探し始めた。
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