シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 おかしいくらいに、心臓がドキドキ、バクバクと鳴っている。
 けれど、私は伝えなくてはならない。

 結婚しなくても、幸せになれる道はあるのだと伝えたい。
 慧悟さんがどんなに一生懸命になっても、身分の差は解決できないのだと。
 私からも懇願すれば、きっと慧悟さんは諦めてくれるはず――。

 目の前では、まだ慧悟さんと奥様が言い合っている。
 それが、私の心には痛い。

「いつまで馬鹿なことを言っているんだ」
「いい加減、諦めなさい」

 旦那様も加勢して、それでも慧悟さんは両親と対峙する。
 それが私の為だと思うと、余計に胸が苦しくて、やめて欲しくてたまらない。

 思い切り息を吸い込み、できるだけ大きな声を出した。

「私からも、慧悟さんにお願いです」

 ご夫妻と慧悟さんがこちらを向く。
 三人のはっとした顔が、こちらを同時に見つめる。
 胸がバクバクしている。泣きそうになる。

 けれど、泣いちゃダメだ。
 私も、私の想いを伝えるんだ。

「私などでは、身分不相応です。慧悟さんには、もっとふさわしい人がいる――」

 言いながら、涙が溢れてきた。
 けれど、黙っちゃダメだ。慧悟さんに上手く丸め込まれてしまう。

「私は庶民です。慧悟さんとは、結ばれてはいけないんです。慧悟さんと幾美家のために、身を引く覚悟はできていました。慧悟さんの優しさに甘えて、ベリが丘に戻ってきてしまいました。けれど、これは本来ありえないことで許されないことです」
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