シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「前埜さん、そろそろ」

 スタッフに言われ、厨房へ。
 ケーキを乗せた木製のワゴンを、倒さないようにそっと押す。

 乗っているのは、もちろん父と母の結婚を祝う、私のウェディングケーキだ。

「お母さん、お父さん。結婚おめでとう」

 私のケーキに、父も母も涙ぐむ。
 つられて私も、泣きそうになってしまった。

「ほらほら、ケーキ入刀!」

 料理長に促され、二人がケーキにナイフを入れる。
 それからフォークを渡し、食べさせ合ってもらった。

 味はどうだろう。
 祝福する気持ちは込めたけれど。

 しばらくの沈黙の後、父が口を開く。

「……美味しい。希幸がパティシエールで、私は嬉しいよ」

「私もよ。希幸は、ベリが丘で一番のパティシエールだもの」

「お母さん、お父さん……、私を育ててくれて、ううん。私という命を授けてくれてありがとう」

 感極まった涙が、頬を流れる。
 その時、不意に娘の泣き声が響いた。

 さっきまで、お行儀よくベビーカーの上で寝ていたのに。

 私はさっと娘を抱き上げる。
 すると慧悟さんが、「いいよ、僕が」と私の腕の中から娘を奪っていく。

「次はあなたの番ね」

 母が言って、にこやかに笑った。
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