シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 デザインを続け、どのくらい経っただろう。
 ふと我に返るけれど、私は手を動かし続けた。

 デザインに没頭していないと、胸の中からせり上がる悲しい気持ちと悔しさに支配されてしまいそうだった。

 慧悟さんとは結ばれない。
 最初から分かっていたことなのに、二人の未来を想像したら胸がモヤモヤする。
 慧悟さんへの恋心はとっくに思い出にしたはずだったのに、いざ再会したら、仕舞い込んでいた想いが溢れてしまった。

 ウェディングケーキのデザインは、それをもう一度、胸の奥に押し込めるための作業でもあるのだ。

 不意に手元に置いていたスマホが震え、慌てて通話ボタンを押した。

「夜分に申し訳ありません。ご宿泊の幾美様から、ガトーショコラを二つお願いしたいと――」

 電話の主は、このオーベルジュのレセプション担当者だった。

「ガトーショコラですか?」

「はい。前埜さんのガトーショコラをどうしてもとおっしゃられていて――」

 ガトーショコラ。
 それは、私にとって大切な、思い出のケーキ。

「かしこまりました。90分ほどお時間いただくことをお伝えできますか?」

「はい、分かりました! ありがとうございます」

 私は急いで作業机を片付け手を洗い、傍らに掛けていたコックコートに袖を通した。
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