シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

5 互いに焦がれて

「ウェディングケーキ、私に任せていただけるんですか……?」

 ダメダメな自分に落ち込んでいたのに、慧悟さんは優しく私の頭を撫でる。

「もちろん。希幸のドルチェは、他の何にも変えられないからね」

 良かった。
 これで、ひとつ約束を果たせる。
 私が日本に戻ってきた意味もある。

 見上げた慧悟さんは、ふわりと優しく微笑む。
 吸い込まれてしまいそうなくらい魅惑的に映るのは、私の彼への恋心のせいだろう。

 しばらくして首をかしげた慧悟さんは、視線をケーキに移した。

 私も慌てて向き直り、残りのケーキを頬張る。
 甘くて濃厚なガトーショコラが、先程の何倍も優しく舌に絡みついた。

「紅茶はアールグレイだね。カフェインも少ないし、この時間には最高だ」

 ティーカップを手にしたまま、慧悟さんは目を優しく細めて窓の外を見つめた。

 オーベルジュの外は、高い木々に囲まれている。
 都会の真ん中にあるとは思えないほど、静かなここは、まるでどこかの避暑地にある別荘のようでもある。

 けれどこの時間帯は、外に闇が広がるだけである。
 木々の向こうに見えるのは、漆黒の海と水平線。

 慧悟さんは、その瞳に何を映しているのだろう。
 考えてると、彼が不意に口を開いた。

「バレンタインも、期待してたんだけどなぁ」
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